娘の行動に膨らむ違和感「親の金をアテにしているのか?」
「大学の後期学費や部活の遠征費が重なって、ちょっと厳しくて……少しだけ助けてもらえない?」
最初は数万円でした。「どうせ最後は子どもに残すお金だから」そんな思いもあり、夫妻は援助をしたといいます。しかしその後も、「住宅ローンのボーナス払いがきつい」「夫が戻るまで生活費が苦しくて」 と相談は続き、援助額は徐々に増えていきました。
そんな娘に、博さんは言いようのない違和感を覚えるようになったといいます。
夫妻の住む家は、由美さんが暮らすマンションから2駅ほど。パート先からの帰路途中でもあり、仕事帰りに立ち寄って、一緒に夕飯を食べることも少なくありませんでした。
「お母さん、これ持って帰っていい?」
余ったおかずを持ち帰ったり、一緒にスーパーへ行けば、和子さんが自然に娘の分まで会計したりすることもありました。また、由美さんは以前から、「この家なら少し手を入れれば、二世帯でも住めそうだよね」と口にすることもありました。
繰り返される娘の“お願い”をきっかけに、何とも思っていなかった過去の言動さえ気になるようになっていきました。
「娘に悪気はないと思う。でも、“親の資産を前提に生活を考えている”ように感じてしまったんです」
「平等」のつもりが…老後資金の共有で起きる“境界線の変化”
近年、認知症対策や相続トラブル防止の観点から、子どもへの資産状況の共有を勧める声が増えています。
実際、慶應義塾大学経済研究所が2024年3月に実施した「老後の資産管理に関する意識調査」によると、認知症への不安を抱く高齢者は64%にのぼります。一方で、子どもに財産の状況を伝えている人は約35%にとどまっており、「必要だとは思いつつも、なかなか踏み出せていない」という実態が浮かび上がります。
また、いざ伝えるとなったとき、問題になりやすいのが「どこまで共有するか」です。佐藤さん夫妻のように、「兄妹だから平等に」と考える親世代は多くいます。
しかし、子どもたちの生活状況や親との距離感は、それぞれ異なります。そして、物理的・心理的に「親と近い距離にいる子ども」ほど、資産額を知ったときに、それを"身近なセーフティネット"として意識してしまうこともあるようです。由美さんも、こうしたケースに当てはまったのかもしれません。
「困ったときは頼れる」「どうせ将来もらうお金なら」という気持ちは、悪意から生まれるわけではありません。ただ、資産の全体像が見えてしまうことで、無意識のうちにそうした発想が生まれやすくなる――これは、個人の問題というより、人が「お金の存在を知ったときに起きやすい心理」として理解しておく必要があります。
もちろん、家族で支え合うこと自体は悪いことではありません。ただ、親子だからこそお金の境界線が曖昧になりやすい――その難しさが、老後になって表面化することは珍しくないのです。
