
結婚や子どもの誕生、あるいは家族の介護など、人生の中で「絶対に守りたいもの」ができたとき、それまでの仕事一辺倒だった働き方は途端に限界を迎えます。しかしそれは、あなたの能力ややる気が衰えたからではないかもしれません。本記事では、佐野創太氏の著書『70%で働く 「もっと頑張る」から脱出する働き方の思考法』(日経BP)より、同氏の実体験から持続可能な働き方について解説します。
「マッチョな働き方」ができなくなった28歳
私の1日は朝6時に始まります。自分で起きるよりも、5歳の息子に起こされることのほうが増えてきました。やっとのことで布団から起き上がると、息子はエンジン全開で部屋の中なのにサッカーボールを壁にぶつけたりして遊んでいます。
そんな状態を落ち着かせつつ(落ち着かないことがほとんどですが)、絵本を読み聞かせしながら一緒に朝食を食べます。といっても、読み聞かせしながらなので、私は子どもが食べ終わって着替えをしている10分の間に流し込みます。その後、登園するまでの40分ほどで一緒にお勉強や運動遊びをします。このように、慌ただしく1日が動き出します。
10年前、27歳のときは、こんな朝を過ごす自分が1ミリも想像できませんでした。新卒で飛び込んだ人材サービス業界では、朝から晩まで働き、仕事に全力を注ぐ、いわゆる「マッチョな働き方」が生活の中心でした。朝礼、会議、訪問、資料作成、数字の管理、飲み会、納会での出し物練習……など、やることは無限にありました。大変だったけれど、毎日仕事だけに集中できる、今思うとぜいたくな日々でした。
しかし28歳のある日、母に介護が必要になり、正社員として働けなくなって、母のケアに専念することになりました。そのときのこれまで感じたことのない感情は、今でも鮮明に覚えています。
「お金どうすんの?」という恐怖。「今頑張らないと社会から見捨てられる」という不安。「頑張って立てていた計画が真っ白になる」という徒労感。「働き盛りの今、頑張れない自分は終わりなのか」という焦り。そんなモヤモヤが何度も頭をよぎりました。
そして、母の介護中心の毎日に慣れ、独立して仕事もぼちぼちと再開したころ、ふと仕事一色だったときの自分を思い出して、「自分は弱くなってしまった」と感じました。
「100%が前提の働き方」の限界
でも、それから、結婚や子どもの誕生を経験して気づいたのは、私が失ったのは、能力ややる気ではなく、「常に100%であるべき」を前提にした働き方だということ。同時に、「100%で走り続ける設計の働き方は、家族・健康・自分……といった守りたいものとは両立しにくい」とも思い至りました。
問題は自分自身ではなく、働き方の設計。働き方の設計さえ工夫すれば、「仕事と生活、どっちをとるか!」という2択で悩まずに済む。そこで、仕事も生活も充実させるために「続けられる設計の働き方」を考え、それに「70%で働く」という名前をつけました。
1500人以上のキャリア相談を通してたどり着いた「働き方」
私の抱えていた悩みは、決して自分だけのものではありませんでした。これまで、1500人以上のキャリアや転職の相談を担当してきて、多くの方が同じような迷いや悩みを抱えていることを実感しました。
「人生で大事にしたいことも増えてきた。でも、仕事も大切にしたい」
「この働き方を、この先も続けていけるだろうか」
「仕事中心の生活を送っていたら、趣味や好きだったことが思い出せなくなった」
「将来を明るく考えられない」
「若いころと同じようには働けない」
どれも、まじめに働いてきた人ほど抱えやすい悩みです。そして、仕事中心の生活を送ってきた人ほど、こう思うことに罪悪感を抱いたり、「自分が弱くなったのでは」と感じたりしてしまうかもしれません。
また印象的だったのは、誰も「怠けたい」とは言っていないことです。本音は、「もっとラクをしたい」「やめたい」でもなく、「このままの働き方で、続きますかね?」に集約されていました。これに気づいたとき、多くの人が無理なく、そして楽しく働き続けるために、「70%で働く」という考え方を求めていると思いました。
今の働き方や頑張り方に違和感を抱いたときは、自分に合った働き方を探し始めたサインです。これまで疑わなかった「全力前提」に、心が小さくブレーキをかけている。その違和感は、立ち止まりではなく、調整の始まりです。
仕事を大切にしながら、心身や大切なものも消耗させない。「70%で働く」は、そのバランスを取り戻すための具体的な方法です。
