◆純粋にピアノを弾きたかったというより…
「うちはもともとこの町に住んでいる家族でしたから近隣はみんな顔見知り。それでも“親しき仲にも礼儀あり”です。突然来て許可もしていないのに家に上がり込んで、しかも勝手にピアノを弾き出すなんて、どんな教育を受けてきたんだろうって。表面的な礼儀作法はそれなりに身についているのに、中身は空っぽというか常識が欠如していたんですよ。『いきなりごめんね。お邪魔していいですか?』『ピアノ、私もちょっと弾いてみていいですか?』ぐらいの一言はあるべきですよね。
そんな言葉もなく、こちらの迷惑も考えられないなんて、親から本当に大事なことを教えてもらっていないからだったのではないでしょうか」
余談だが、メグミさんからすると、その子は純粋にピアノを弾きたかったというよりも、マウントを取りたかっただけなのではないかと感じていたそう。
「『子犬のワルツ』って、その年齢だとかなり難しい曲なんです。私が弾いていたのはもっと簡単な曲だったので、『自分はこんな難しい曲が弾けるんだ』っていうアピールで、完全にマウンティングだったように思います。……いま思い出しても不快ですね」
◆ナチュラルに身についた“上から目線”
タワマンの上層階という住環境も、何かしら影響しているのではないかとメグミさんは推し量る。「後で聞いたんですが、そのタワマンもご多分に漏れず、上層階は富裕層、下層階は一般市民といった感じで、階数の高低によってヒエラルキーがあったみたいなんです。上層階の住民の感覚からすれば、下町の一軒家なんて、タワマン下層階よりもさらにランクが下だと思われていたのかも。
そういう親たちの選民意識がそのまま子どもに受け継がれていて、自分たちが“上”だから礼を欠いた言動も許されるって、無意識で思っていたんじゃないでしょうか。あのときの女の子の行動と態度を見て、そう感じずにはいられませんでした」
“下界に住む下々の民”に対し、何から何まで許可を取る必要はない、好き勝手振る舞ってもかまわない──ということか。
「確かにあの年齢にしてはピアノ上手だったと思いますよ。でもね、技術や能力よりも先に大切にすべきものがあるんじゃないですかね」
きらびやかなタワマンの高層階から見下ろしているのは、夜景だけではないのかもしれない。
ナチュラルに身についた“上から目線”は、子どもたちの振る舞いにもそのまま表れてしまうのか。とはいえ、いきなり現れ、勝手に見下された側からしたら、たまったものではないだろう。
<取材・文=森田浩明/A4studio>
【森田浩明】
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。

