
美談にされがちな「家族による献身的な介護」。しかし、きょうだいの誰か一人にその重責が集中したとき、それは優しさではなく「共倒れのカウントダウン」へと変わってしまい……。事例をみていきましょう。
妹に母の介護を託して2年
2年前、地元で暮らす母親(82歳)に認知症の症状がではじめたとき、妹のカヨさん(仮名/56歳)は電話口で「お母さんのことは私が近くにいるし、支えるから」と言ってくれました。
長女のマサミさん(仮名/61歳)は、東京の大手企業で定年を迎えたあとも、再雇用として働き続けています。自身も結婚しており、東京での生活基盤があるため、なかなか地元の介護問題に直接介入することができません。
地元で夫と二人で暮らしていたカヨさんは、当初は実家に通いながら母親の面倒を看ていました。しかし1年前、長年勤めたパート仕事を辞めて「介護に専念する」という決断を下したのです。
母親の受給する年金は月額14万円。地方で健康に暮らす持ち家の高齢者一人分の生計であれば、十分成り立つ額面でしょう。マサミさんは「カヨがついていてくれるし、お金もなんとかなっているのだろう」と、どこか安心していました。毎月、数万円の仕送りを実家に送金することで、長女としての義務を果たしているつもりだったのです。
しかし、久しぶりにまとまった休みを取って実家を訪れたマサミさんは、衝撃を受けることに……。
実家の変貌ぶり
新幹線とローカル線を乗り継ぎ、懐かしい実家の玄関扉を開けた瞬間、マサミさんの鼻腔を突いたのは、独特の異臭でした。生ゴミの腐敗臭と、排泄物の匂いが混ざり合ったような、澱んだ空気。
不穏な予感を抱きながらリビングへ足を踏み入れたマサミさんは、その場に固まりました。
かつて綺麗好きだった母親の家は、足の踏み場もないほどモノに溢れ、あちこちに脱ぎ散らかされた衣類や食べかけの総菜パックが散乱しています。そしてソファーの端には、髪はボサボサで化粧っ気もなく、やつれた妹が座り込んでいました。
「……あ、お姉ちゃん」
カヨさんの声には、かつての明るさの破片すら残っていません。奥の部屋からは、「誰?」と母親の警戒したような声が聞こえてきます。
「一体どうしちゃったの、この家……。カヨ、ちゃんとご飯食べてる?」
マサミさんの問いかけに対して、カヨさんは堰を切ったようにボロボロと涙を流し、その場に泣き崩れてしまいました。
