では賃貸なら東京にしがみつけるかというと、そうでもない。ファミリー向け平均家賃(50~70平米)は’25年11月、初めて25万円を突破。新築も中古も賃貸すらも狂騰する不動産市況に取り残されて身動きが取れなくなり、東京から離れたくても離れられないという人すらいるのだ。

◆タイミングを逸し賃貸貧乏街道まっしぐら
IT系企業に勤める会社員の相沢拓己さん(仮名・48歳)の日課は、不動産サイトを開くことだという。しかし、買うためではない。「15年前に購入を検討した物件が今、いくらになっているか確認するんです。あの時から、価格は倍以上。見るたびに無理してでも買っておけば……って後悔するんですけど、どうしても気になっちゃって。もはや自傷行為ですよ、完全に」
年収750万円、妻(42歳)がパート勤務で年収150万円ほど。世帯年収は900万円と決して貧乏というわけではない。現在は、荻窪の2LDK・55平米を月19万円で借りている。
「買いたかった物件は6000万円。駅近で立地は抜群、65平米の3LDKでした。私は当時年収600万の単身で頭金もあり、頑張れば届く範囲。でも当時交際中だった彼女と『結婚したら決めよう』って後回しに。今思えばそれが間違いでした。入籍して子供ができて、さあそろそろって思ったときには、もう手が届かない額に。会社の同期はだいたいこの時期に家を買っていて、みな倍以上になったとホクホクです。あの時買っていなかった、それだけでこんな差を生むなんて……」
さらに、賃貸の更新で大家から家賃10%の値上げを通告された。
「近所で同じ広さを借り直そうと思ったら25万はします。追い出されても困るから、賃上げは飲まざるをえなかった。世帯で900万あっても、都内で家を買えないどころか、近場では賃貸の住み替えすらできない。いっそ東京から出ればいいんでしょうけど、妻も今のパートを続けられなくなるし、子供のこともある。次の更新でさらなる値上げを言われないか、憂鬱で仕方ありません……」
不動産市場には“掲載価格”と“反響価格”のギャップも広がっている。賃貸でも中古でも、サイトに出る募集価格は高騰を続ける一方、実際に問い合わせが入る水準はそれより低い。売り手の強気と生活者の支払い能力のズレが広がっているのだ。


◆狭い家で我慢するしか選択肢がない
「紙の上では資産が増えてる。でも、そのお金は1円も手に入りません」そう話すのは、メーカーの営業職をしている戸部昭彦さん(仮名・50歳)だ。相沢さんとは違い、世田谷区の2LDK・60平米の持ち家に妻と子供2人の4人で暮らしている。
「’19年、今の家を4800万円で購入しました。変動金利0.5%、月々の支払いは管理費込みで月13万くらい。子供一人の頃は十分な広さだったんですよ。賃貸より断然お得だねって妻と話して。でも、二人目ができるとどうしても手狭で。学習机を置く場所がないからソファを撤去したり。引っ越しも視野に入れていました」
そうして昨年、物件の現在評価額を調べてみたという。
「5800万円を超えていたんですよ。妻に言ったら『1000万も儲かったの!?』って目を丸くして。僕も最初はすごいと思っていたんですが、ちゃんと計算したら全然そんなことなかった。残債がまだ4000万くらいあるから、売っても手残り1500万ちょっと。それを頭金にして同じエリアの3LDKを買おうとしても、築古ですら7000万以上するし、金利も当時から1.5倍くらいになっている。月の支払いが15万以上になるんです。儲かったはずなのに、負担は増えていた」
戸部さんが計算したところ、家を売って得するには3000万円台の物件を探すしかなかったという。
「調べたら、向ヶ丘遊園まで行けば3LDKが3000万円台で買えた。でも、妻に話したら『そこ神奈川じゃん。上の子、転校になるね』と言われて会話が終わりました。子供も横で聞いてて、『転校したくない』って泣き出して……。職場まで30分以上通勤時間が増えるし、子供の学区も変わるし、車も必要になるから駐車場代で月2〜3万かかる。結局、トータルの出費は今より増える。狭いのを我慢してでも、ここに住み続けるしかないって現実にぶつかりました」

