◆「すべてはアベノミクスで変わった」
暴騰を続ける不動産価格に、変わらない賃金。相沢さんや戸部さんはそのあおりを受け、都落ちすらできずにもはや東京に幽閉されている。なぜこのような事態に陥ってしまったのか。不動産市況に詳しい小原正徳氏は、現状をこう言い切った。「現在の23区では買い負け・借り負けが同時に発生してしまっている。売って賃貸で様子を見ようとしたら価格がさらに上がって戻れなくなった、買い直そうとしたら審査が通らなかった、という事態が実際に起きています。残念ながら解決策はないというのが正直なところで、今を耐えるか、何らかの犠牲を払ってでも東京を損切りするかの二択です」
どうしてこんなことになってしまったのか。変質の起点を’13年に置く。
「アベノミクスの金融緩和でマンションが値上がりし続ける金融商品になりました。投資家にとって魅力的な商品になる一方で、実需の人間には手が届かなくなる一方に。そこに’21年以降の建築費高騰が重なって、デベロッパーが庶民向けでは採算が取れなくなってしまい、全国各地でマンション事業から撤退するデベロッパーが続出しています。今は供給を月500戸程度に絞り、世界中の富裕層500人を見つければ完売するという金融商品的なビジネスモデルに変わっている」
事実、リクルートの調査では購入動機のトップが「資産として有利だから」(36・7%)になり、調査開始以来初めて最多となった。象徴的なのが50年ローンだ。
「35年では審査が通らない人が続出したから返済期間を延ばした。完済時は80歳前後。本来は借りる力のない層に無理やり貸しているだけで、バブルの延命策に過ぎません。住宅が国民の権利ではなく、金融商品に変質してしまったことが、東京に住む人々を苦しめているわけです」
「あのとき買っていれば」という後悔は、市況が上がるたびに積み重なっていく。持っていても、持っていなくても、出口が見えない。この構造が変わる兆しは、今のところ見当たらない。


