
子どもが独立した後も、「ちゃんと食事をしているだろうか」「困っていることはないだろうか」と心配が尽きず、つい手を差し伸べてしまう親は少なくありません。ですが、行き過ぎた心配や善意が、ときには親子関係に思わぬ亀裂を生じさせることもあります。今回は、トータルマネーコンサルタント・CFPの新井智美氏が、限られた年金収入の中でも息子への援助をやめられなかった女性の事例をもとに、子離れの難しさや老後資金への影響、親子の適切な距離感について解説します。
息子のひとり立ち…合鍵を受け取った母
東京都内に住む68歳の佐藤由美子さん(仮名)は、5年前に夫を亡くしました。現在の収入は遺族年金と自身の老齢厚生年金を合わせて月17万円ほど。一方、長男の健太さん(仮名・35歳)は会社員。3年前に実家を出て、同じ市内でひとり暮らしを始めました。
その際、「緊急時のために」と由美子さんへ合鍵を渡しています。この合鍵が、後に親子関係を揺るがすことになるとは、当時は誰も思っていませんでした。
「ちゃんと食べているのかしら」…食材を届けるように
「ちゃんと食べているのかしら」
健太さんがひとり暮らしを始めてから、由美子さんは何かと気にかけるようになりました。帰宅が遅いと聞けば、食事や体調が心配になります。由美子さんは週に1回ほど息子のマンションを訪れ、食材を届けるようになりました。
牛乳、卵、野菜、冷凍食品などで毎回5,000円程度。月にすると約2万円です。さらに洗剤やトイレットペーパーなどの日用品を持っていくこともありました。
忙しい時期には、「受け取れないから冷蔵庫に入れておいて」と健太さんから頼まれることも。それが何度か続くうちに、由美子さんの中でこんな感覚が生まれます。
「息子のためなら、いつ入っても構わない」
やがて健太さんが不在でも部屋に入り、食材を補充することが当たり前になっていきました。
