◆W杯の決勝を1か月後に控えたニューヨークで起こった刺傷事件

今回のW杯は、アメリカ、カナダ、メキシコの3か国の16都市で開催される。そのうちの11都市がアメリカだ。ニューヨークでは試合は行われないが、ハドソン川を渡ったニュージャージー州の「メットライフ・スタジアム」では決勝(7月19日)を含む8試合が行われる。多くの観客や大会関係者はニューヨーク市内に宿泊するため、大会が滞りなく実施されるかどうかは、全米最大都市のニューヨークにかかっていると言っても過言ではない。

現場で取り押さえられた51歳の男はホームレスで、精神的にかなり不安定な状態にあったという。刺された6人とは面識はなく、不特定多数を狙った通り魔事件だった。
ペン・ステーションは「メットライフ・スタジアム」での試合のために運行される特別列車が発着する駅で、現場となったのは特別列車を運行するニュージャージー・トランジットのホーム近くだ。ホームレスがそれを知っていたかどうかはわからないが、W杯直前に起きた事件としては、あまりにも不穏だ。
◆会場スクリーンにトランプ大統領が映し出されると、観客から大きなブーイングが……

半世紀以上も優勝から遠ざかっている地元ニューヨーク・ニックスが53年ぶりの優勝をかけて決勝に駒を進めていた。敵陣で2連勝してニューヨークでの第3戦に臨むとあって、ニューヨークはW杯どころではなくニックス一色だ。試合会場の「マディソン・スクエア・ガーデン」は観客のみならず、多くのファンで取り囲まれることになっていた。さらにトランプ大統領が観戦のために「マディソン・スクエア・ガーデン」を訪れることも予定されていた。
こうした中での通り魔事件は、治安への大きな不安をかきたてた。当局は大慌てし、ニューヨーク州のホークル知事とニューヨーク市のマムダニ市長がコメントを発表するなど、事態の沈静化に務めた。
夜が明けて、ニューヨーク市民が待ちに待った第3戦の8日、市内は最大級の警戒態勢となった。トランプ大統領が訪れるとあって「マディソン・スクエア・ガーデン」周辺の道路は閉鎖され、市民生活は分断された。平日だというのに、通常のビジネスが行えるような環境にはなかった。
興奮と混乱の中で行われた第3戦では、国家斉唱の際に会場のスクリーンにトランプ大統領が映し出されると、観客から大きなブーイングが起きた。ニューヨークはトランプ大統領の出生地で大統領にとっては地元だが、圧倒的に反トランプ派が多い。ファンの多くは、大統領の試合観戦を歓迎しない意思を表した。
試合は接戦の末にニックスが敗れた。不満が高まったファンは試合後、パブリックビューイングが行われていたブライアントパークで大暴れし、警官隊と衝突した。警察官5人がけがをし、ファン21人が逮捕された。ブライアントパークは市内でもおしゃれな公園として知られ、映画などにも数多く登場する。そんな公園が大乱闘の舞台になってしまったことに、ニューヨーク市民は大きなショックを受けている。
トランプ大統領が試合を観戦しなければ、パブリック・ビューイングは「マディソン・スクエア・ガーデン」の外側で行われるはずだった。「大統領のせいで無用な混乱が起きた」との印象は強く、今後のW杯運営に不安を残した。

