歌手、俳優で役割は「泥くさい中年の代弁者」。でも、本当にそれでいいのか? いやいや、まだてっぺんを取ることも諦めちゃいない。勝手に決めつけてくれるなよ。よー、そこの若いのも、老いたのも、女も子どもも。歌うたい「竹原ピストル」の50歳の決意、聞いてくれよ。

◆もう一回、勝負する時なんじゃないの?
シンガー・ソングライター、竹原ピストルは今年50歳を迎える。地方巡業のアンダーグラウンドから音楽シーンの天下取りを狙い続けている男が40代最後に発表したニューアルバムのタイトルは、(※1)『FIRST CRY!!』。その意は“産声”。「原点回帰ではなく、今の自分でもう一度ファーストアルバムを」と意気込む男の左手にはファーストミット。竹原ピストル。歌うたい、己の宿命を悟る「知命」の境地に達した男は齢(よわい)五十を前にしても、その天命に抗う。――今回の撮影で座りのミット姿がベテラン捕手然とした雰囲気だと思ったら、中学時代はキャッチャーだったそうですね。
竹原:そうなんですよ。当時バッテリーを組んでたエースとは仲はよかったけど、すげー気難しいヤツでしてね。もうほんと冗談じゃねえやと思って「俺はもう個人競技がいい!」つってやめました。
――ピストルさんといえば、楽曲も含め(※2)ボクシングのイメージが強いですが、今回のアルバムはジャケットからして野球です。
竹原:これも縁みたいなものがありまして、ちょうど3年前に知り合いの方から「今度、泉口友汰(いずぐちゆうた)って選手が巨人に入るから応援してやってよ」と飲み屋で聞いて、「おー、じゃあチェックしよう」って野球を見始めたらハマってしまって。球場で何げないキャッチボールを見ても、この人が投げたボールは人生の何億球目なんだろう……と勝手に想像しては熱くなっちゃって。

竹原:あ、ばっちこい世代ですね(笑)。これはちょうど野球を見始めたところに、(※3)BCリーグ20周年のテーマソングとして曲のオファーをいただいて。失礼ながら僕はBCリーグのことを知らなくて。でも「応援してくれる人がいるから戦える」ことは、僕が歌うたいとしても身に覚えのある感覚なので親身に思いながら「夢かもしんないけど、今更でも今からでもやってやろうぜ」という内容で提出したんです。その後に再起を目指す選手たちのリーグだと知って。まったくのラッキーパンチです。「なんだこの野球流れ、こんなことあんのか」となりました。
◆30歳や40歳とは全然違う、逆算をし始める50歳
――今回のアルバムのアーティスト写真でもスコアボードの5回の前に立つ写真がありました。これは50歳になる暗喩(あんゆ)ですか?竹原:これも恐ろしいことにまったくの偶然で。ただ、今、僕は49歳で「あー俺、50歳になんのか!」って考えが自分でもびっくりするぐらいあるんです。これって30歳や40歳になる時と全然違って。もちろん今の自分の歌が一番いいって揺るぎなく思ってますけど、そうやって音楽活動できるのはあとどれだけなんだろうと……ふとカウントダウン方式で考える自分がいて。そんな時、「もう一回ここから勝負する時なんじゃないの?」という気持ちになったんです。

竹原:そうそう。逆算すると「今からじゃ間に合わねえわ」ってことが出てくるじゃないですか。でも、振り返ると、先に目標を設定してそこから逆算して達成したことより、今やるべきことを一生懸命当たり前にやり続けていたら、後ろに大きな足跡がついていたパターンのほうがはるかに多い。先のことをウダウダ考えるより、今できることを全力でやっていくしかない。腹くくんなきゃいけねえって年にはなったのかなって。同世代の皆さんはどうですか?
――体力の衰えを感じ、会社や家庭で置かれる立場の中で老害と呼ばれながら若い頃のガツガツした自分を取り戻したい、という声はすごく聞きますね。
竹原:僕も「売れてやるぜ、ゼッタイ天下取ってやるからな」みたいな気持ちは自分でも恥ずかしいほど変わんないですね。「これができなくなっちゃった」みたいなことは、ないことはないけど、それ以上にできることのほうが増えてます。“できる限り自分を客観視した上で”言えるのは、歌詞の精度とクオリティがどんどん上がってきていると思えるし、歌もやっぱり良くなっていると思えます。

