
ある商品を「ほしい」「買いたい」と思ったとき、人はどうやって選ぶのでしょうか。価格や店の雰囲気など、いろいろな選択肢があると思いますが、自分自身に商品知識がない場合は、一定の行動をとりやすいようです。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
割高でも、宝石は高級宝飾店で買う人が多いワケ
私たちは、自分のことはよく知っていても、他人のことはあまり知りません。他人のことを知りたいと思っても、話してもらえない場合も多いですし、嘘をつかれているかもしれません。これを難しい言葉で「情報の非対称性」と呼びます。
宝石を買おうと思った時に、宝石の品質を見定める能力はプロの方が上でしょうから、相手が信用できる人でないと、粗悪品を高く売りつけられる可能性があるわけです。したがって、宝石をお祭りの夜店で買おうとする人はまずいません。百貨店か一流の宝飾店から買うのが普通でしょう。おそらく割高だろう(店の利益率が高いのだろう)と思いながらも、粗悪品を売りつけられるリスクを考えると一流店で買うほうが安心だからです。
では、なぜ一流店は信用できるのでしょうか? それは、彼らが「失うもの」を持っているからです。彼らが短期的に儲けようと思えば、粗悪品を高く売ればよいのです。彼らは顧客から信用されているので、簡単に売れるでしょう。しかし、粗悪品であることがバレると、彼らは顧客からの信用を失います。そうなると「将来にわたって信用で稼げる」はずだったのに、一時の利益だけですべてを失ってしまいます。それがわかっているので、彼らは正直に商売をするのです。
ブランド品も同様です。ブランド品はロゴに意味があるのではなく、品質がよいという信用に意味があるのです。
失うものを持たない新興企業にとって、信用を得るのは大変です。それは「自分は嘘をつかない」ということを証明することが困難だからです。
さらに信用のない学生にとって、就職試験で自分の英語力を信じてもらうのは大変かもしれません。採用側が英語の試験を実施してくれればいいのですが、採用側はそんなコストはかけたくないでしょうから。しかし、その場合には「英語検定試験の合格証を見せる」という手段があります。英語検定試験というのは、自分で金を払って休日を使って受けるわけで、受けるメリットがなければ受ける人は少ないでしょうが、実際には就職活動などで役立つというメリットがあるから受ける人が多いのですね。
社債を発行する時に「格付け」を取得する企業が多いのも、「我が社は倒産しそうもない立派な会社だ」ということを投資家に信じてもらうためですね。英検を受ける就活生と同じことですね。
知らない土地の、知らない店に入るより…
企業が取引銀行から経理部長を受け入れている理由のひとつは、「我が社は粉飾決算をしていない」ということを銀行に信じてもらいたいから…かもしれません。自分が嘘をついていないことを信じてもらうのは大変だからです。
銀行は、貸出金利を高くすると危険かもしれません。金利を高くすると客が逃げてしまうこともありますが、それはまだ、金利を儲けるチャンスを逃しているだけだからマシでしょう。「金利の安い銀行に融資を断られた借り手」すなわち借金返済能力の低い借り手だけが借りに来るようになるかもしれません。そうなると、貸出元本をそっくり損するリスクを抱えることになります。
生命保険会社のなかに「健康診断を義務付ける会社」と「義務付けない会社」があると、義務付けない会社には健康診断の結果が悪い人ばかり加入してくるかもしれません。そんなことになると、保険金の支払い事例が続発して大損してしまうかもしれませんね。
全国津々浦々に全国チェーンのハンバーガー店があるのも、「情報の非対称性」と関係あるかもしれません。旅行者は、地元の店が安くて美味しいか否かを知らないので、全国チェーンで食べたほうが安心だ、と思う人も多いでしょうから。
