息子が漏らした後悔
しかし、その後も援助依頼は止まりませんでした。数週間後には再び「今月だけ頼む」という連絡が届きます。
健太さんは次第に、電話に出ること自体が負担になっていったといいます。最後の送金依頼を断って以降、自分から連絡することをやめました。
「正直、もう疲れてしまったんです」
親を見捨てたかったわけではありません。むしろ健太さんは、関係を再構築しようとしていました。だからこそ苦しかったのです。援助を求められるたびに応じるべきか迷う。断れば罪悪感が残る。しかし応じ続ければ、自分自身の老後にも影響しかねない——。そんな葛藤を繰り返すうちに、心がすり減っていったといいます。
加えて60代は、退職金の運用や年金受給開始の判断など、子世代自身の老後設計を考える重要な時期です。感情だけで支援を続けると、親子双方の生活設計が崩れてしまうこともあります。
健太さんがのちに語ったのは、「もっと早く、お金の話をきちんとしておけばよかった」という後悔です。支援するかどうかではなく、どう支援するかを、関係がいいうちに話し合っておくこと。それが、結果として親子関係を守ることにもなったのかもしれません。
父との関係を再構築しようと、何度か帰省したあの日々が、まさか断絶への始まりになるとは思っていませんでした。健太さんの胸の中には、ひとつの思いだけが残っています。
――父さん、もう帰ることはありません。
親子だからこそ、お金の話は後回しにしがちです。でも、その「後回し」が積み重なったとき、失われるのはお金だけではないのかもしれません。
三原 由紀
合同会社エミタメ
代表
