◆人事担当者が見た“上司と部下”

佐伯さんは事業会社で職場環境に関する社員の相談の対応をしている。ある日、彼女のもとに中堅の男性営業社員が訪れたという。
その社員は「これは人事に言うべきことなのか分からないのですが……」と前置きしながら、自分の上司にあたる40代の管理職の行動について言及した。
山手線の主要駅に近い繁華街のビデオBOXへ入っていく姿を目撃したというのだ。問題は、その上司の日頃の振る舞いにあった。
「上司は部下に対して勤務時間や報告について非常に厳しく、『今どこにいるのか』『なぜ戻りが遅いのか』と細かく確認するタイプでした。それだけに、本人がそういった場所に行くのを見た部下の困惑は大きかったようです。ふだん、自分たちは厳しく管理されているのに、上司は何をしているのかと」
上司が目撃されたのはその日だけでなく、以前にも似たような場所で見かけたという話があるそうだ。会社には「外出」「取引先訪問」「移動中」などとしていた。
そして、上司への不信感と不公平感が積み重なっていたのだ。
「人事担当者として、職場の信頼関係がこういう小さな違和感から崩れていくんだということが印象に残っています」
とはいえ、佐伯さんはその上司に直接「ビデオBOXに行っていましたか」と確認することはしなかった。
「もちろん、勤務時間中であれば問題になる可能性が高いです。ただ、単純に“サボり”と決めつけるのは少し違うとも感じました。
実際その部署はかなり忙しく、数字のプレッシャーも非常に強かった。とくに管理職は上下から責任を問われ、板挟みになりやすい立場。じつはその上司もかなり追い詰められていたのかもしれません……。
ビデオBOXは単なる娯楽の場所というより、“一人になれる場所”なのかと思います。カフェだと人目がありますし、ネットカフェも若い人や学生が多い。ビデオBOXは入りにくい雰囲気がある一方で、逆に知り合いには会いにくい。上司が昼間の数十分だけでも誰にも見られずに休みたかったのだとしたら、少し切ない話でもあります」
◆“ただのサボり”ではない事情も
三者の証言を重ねると、ビデオBOX利用には大きく二つの側面があることがわかる。一つは、田中さんのように勤務時間中の暇つぶしを主な目的とした利用だ。外回りの隙間などを活用し、コストを抑えつつ個室空間を満喫する。
もう一つは、安室さんや佐伯さんが話した上司のように、精神的な逃避を目的とした利用だ。誰にも見られず、笑顔をつくらず、一人で過ごす。ビデオBOXという場所が、追い詰められた人間にとって安全地帯として機能しているのかもしれない。
職場の信頼関係を損ねるリスクを抱えながらも、それでもそこへ向かわざるを得ない事情が、現代社会には潜んでいるのだ。もしも平日の昼間からビデオBOXに吸い込まれていく人がいても、どうか大目に見てあげてほしい。
<取材・文/日刊SPA!編集部、藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo

