◆隣の席を占領する大きなバッグ

そんな中、鈴木さんは一か所だけ不自然に空いている席を見つけた。
「よく見たら、若い女性の隣に大きなバッグが置かれていたんです」
バッグは座席の半分近くを占領しており、本来ならもう一人座れる状態だったようだ。女性はすぐバッグをどかすだろうと思っていたのだが、電車が発車しても荷物を移動させることはなかった。
「周りには立ったままスマートフォンを見ている会社員や、疲れた表情の乗客もいました。誰かが座りたいと思っていても、その席だけ使えない状態にイライラしてきたんです」
◆声をかけると女性は気まずそうに…
そこで、鈴木さんは女性の前に立ち、落ち着いた声で声をかけることに。「すみません。その荷物、どかしていただけますか?」と、優しい口調で伝えた。「もちろん怒鳴ったわけでも、説教したわけでもありません。その女性は話しかけられたことに驚いた様子で、私を見上げた後、気まずそうな表情になり、すぐに『すみません』と小さな声で謝ってバッグを膝の上へ乗せました」
鈴木さんは荷物を指しながら、お願いしただけだった。そして、近くにいた乗客が“その席”へ座ったという。
「女性は、その後も落ち着きがなくて、スマホを見ながらも周りを気にしている感じでしたね」
女性は、次の駅で降車。最後まで恥ずかしそうな表情をしていたようだ。声をかける瞬間は緊張したものの、結果的には座席を必要としていた人に席を空けることができたことに満足したという。
「些細な出来事ですけど、勇気を出して注意して、その女性が恥ずかしそうにしていた様子を見て、少しスカッとしましたね」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

