◆結婚のために奮闘した中国青年の悲しい結末
今や100万人近くの中国人が日本に在留しているそうだが、彼らは結構働き者だ。僕が一緒に働いていた中国人の黄君は、ベトナム人の彼女と結婚するために昼はエンジニアとして働き、週末の夜にコンビニへ来ていた。仕事は雑だがスピードがすさまじく、冷凍ものや飲料の納品で彼より早いスタッフは誰もいなかった。文句も言わず、疲れた表情を見せるのは外で煙草をふかしている時くらいだった。唯一の欠点は、廃棄商品を熱心に持って帰りすぎるため、他の夜勤スタッフから嫌がられていたことくらいだ。
そんな彼は、フリーターとしてふらふらしている23歳の僕を心配し、会うたびに「大学に行った方がいいです」と繰り返した。学歴がなければ生き抜けない中国の格差社会を思えば、僕の姿が心配で哀れに見えたのだろう。
生きるエネルギーに満ち溢れていた黄君だったが、ある週末、突然職場に顔を出さなくなった。オーナーの電話にも出ず、僕がショートメッセージを送ると、「お世話になりました。彼女に振られてもうダメです」とだけ返信があった。
客に「おでんはないのか?」と訊かれてないと答えると中指を立てられ、トイレを貸していないことに激昂されて長い時間理不尽に説教され、年齢確認をしたら唾を吐きかけられる。そんな数々の不条理を一緒に耐えてきた心の強い男が、失恋を理由に出勤しなくなってしまうなんて、思わず悲しくなった。新しい彼女ができてまたどこかで働いているといいな。
◆どんな外国人よりも手癖が悪かった日本人
ちなみに、僕が一緒になった中で一番の問題児は、日本人のムラタだった。パンが納品されると、検品スキャンをせずにポケットに入れて持ち帰っていた。オーナーに咎められても悪びれず、見かねたオーナーが彼のために廃棄商品をキープしておくほどだった。彼は重度のギャンブル中毒者で、パチンコ屋から僕に「3000円貸してくれ」と電話してきたり、オーナーに給料の前借りをしたりと散々だった。そんな彼がレジ金に手をつけないはずがなかった。
ある日出勤すると、オーナーが「千馬くん、金庫のお金知らないよね」と言ってきた。当時すでにセルフレジだったため、計算が狂うはずもない。オーナーは帰るまでずっと防犯カメラの映像を確認していた。
後日、やはりムラタが盗んでいたことが発覚し、お金は彼の奥さんが返しにきた。ムラタは当初「俺は知らない」と言い張っていたが、映像を前にすると真っ青になり、「警察だけはやめてくれ」と事務所で泣きじゃくったらしい。防犯カメラの電源を抜いたつもりが、別の電源を抜いていたという。それすら見分けがつかないほど、首が回らなくなっていたのだろうか。
真相は闇の中だが、僕が引っ越す数日前、駅前のパチンコ屋に入っていくムラタを見かけた。働いたお金であればいいけれど、また別の場所でお金をちょろまかしたりしたのかもしれない。にこやかで気持ちのいい奥さんと元気なお子さんが、これ以上泣くような結果にならないことを願う。

