
◆55億円詐取直後の記憶。報酬は2億
白い紙の手提げ袋をふたつ提げた中年男が、都営新宿線・森下駅近くの交差点でタクシーを拾おうとしていた。袋の中身は、積水ハウスから騙し取った55億円のうちの2億円。1000万円の束が透明なビニールで横二列にパッキングされた、むき出しの“ゲンナマ”だ。すれ違う通行人に覗かれれば一巻の終わり。男はソワソワと落ち着かなかった。「もう家には帰れない」
そう思いながら男はタクシーで新宿へ向かい、憧れだったパークハイアット東京に逃げ込んだ。だが部屋で札束を眺めるうち、込み上げたのは喜びではなく、自分自身への怒りだった。「ちくしょう!」と叫び、札束をベッドに投げつける。
これが、私が2年ほど向き合った男――2017年の積水ハウス地面師詐欺で「連絡役」を担った、カトウ(仮名)である。
◆綾野剛が演じた交渉役の〝素顔〟

取り調べで、刑事に開口一番こう尋ねたという。
「この事件で、死人は出ていませんか」
被害に耐えかねた積水社員が自殺していたら――そう思うと怖かったのだという。
「俺は結婚もしてないし、子供もいない。守るものがないから、犯罪に身を沈めてしまった」
巨額詐欺の犯人とは思えない、奇妙な良心と小者ぶり。私はこの男から目が離せなくなった。

