◆実際の犯行は「拍子抜けするほどテキトー」

だが、ドラマと現実は驚くほど違った。劇中では口封じの殺人まで描かれるが、実際の犯行は淡々として、拍子抜けするほどテキトーだったのだ。地主になりすます“役者”の「面接」は、履歴書もなく、メモ書きした個人情報を暗記させるだけ。連れてこられた女性は髪もボサボサで、とても資産家の地主には見えなかった。偽造の権利証は、道具屋によって紅茶でシミをつけて古紙に見せかけた手製の代物。しかも1か所だけ新字体の漢字に書き間違えのような箇所もあったーー。
カトウ自身の役回りも、華やかとは程遠かった。
「役者を商談に連れて行って、外でただ取引が終わるのを待つだけ。稼働は多いのに、待ち時間が長い。よく喫煙スペースやレンタルビデオ屋で暇つぶししてた」
出番の多くは“待機”だったと、カトウは苦笑する。こうも言った。
「結局、みんなただ金が欲しいだけ。手に入れても湯水のように使う。派手に見えて、中身は空っぽなんですよ」
では、ごく普通の男がなぜ転落したのか。
カトウは元・野球少年だ。四番・キャッチャーでキャプテンを務め、名門大学野球部に推薦で進む。だが「これは俺じゃ、ついていけねえ」とレベルの違いに挫折し、肩も壊してあっさり中退した。
「早く社会に出て金を稼ぎたい。なんでもいいから社長になりたい」。
そんな彼が憧れたのが、独身で自由に遊び、高級車を乗り回す不動産ブローカーたちだった。
「世話になってた不動産会社の社長に頼まれて、資産家のおばさんから俺の名義で金を借りたんです。気づいたら3000万円。でも社長は急に亡くなって、残ったのは借金だけ。穴を埋めようと消費者金融にも手を出して……そこから、地面師の世界にズブズブと」
そうやって、カトウは坂道を転がり落ちた。
◆「例の土地」はタワマンに。ドラマ効果で「むしろ内見希望者が増えた」
実を言えば、私はカトウと同学年だ。野球少年だったカトウと違って私は学生時代に無軌道に突っ走った時期があった。だが就職氷河期に社会へ出た私がカトウと違ったのは、「文章に関わる仕事で生きていく」という指針を早くに見つけられたこと、ただそれだけかもしれない。普通の人生と転落は、思っているよりずっと地続きにある。
「野球っていう道が絶たれてから、夢中になれることはもちろん仕事のやり甲斐も感じられないまま年齢だけ重ねてしまった。その代わりにあぶく銭に散財する悪い大人に憧れ、金に取り憑かれ軽い気持ちで犯罪に加担してしまった。逮捕されて服役し反省したところで今さら取り返しがつかないことばかりです」
そう語るカトウの横顔に、かつてキャプテンを張った少年の面影はなかった。
地面師たちが狙った五反田の土地は、いま「アトラスタワー五反田」という高さ105メートルのタワーマンションに姿を変えた。1億5000万円の部屋を買った住民は「事件は知っているけれど、過去のこと。死者が出たわけでもないし」と涼しい顔だ。皮肉なことに、ドラマの配信後はこの物件の内覧希望者がむしろ増えたという。犯行グループのアジトだった事務所が入った雑居ビルも、今は新築マンションに建て替わって跡形もない。
街は絶えず新陳代謝を繰り返す。一方で、詐欺を繰り返す人間の本質は変わらない。現に大阪では、同じ手口の地面師事件がまた起きている。
東京拘置所で「もう犯罪はしない」と誓ったはずのカトウもまた、更生を願う家族の声をよそに、相変わらず危うい場所をのらりくらりと漂っている。あの日、札束を投げつけて泣いた男は、今もまだ、自分の居場所を探しあぐねている。


