孫費用を安易に使うことのリスク
総務省「家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の実収入は月平均約25万4,000円である一方、消費支出は約26万4,000円となっており、家計は赤字傾向にあります。多くの高齢世帯は不足分を貯蓄の取り崩しで補っています。
つまり、現役時代と同じ感覚でお金を使い続けると、老後資金が想定以上のペースで減ってしまう可能性があります。特に孫関連のお金は、「可愛いから」という感情が加わるため、支出が膨らみやすい傾向があります。
順子さんの場合、長男の孫娘1人に対して1年で約50万円。老後資金が1,800万円あるなら「大した額ではない」と思う人もいるかもしれません。
しかし、孫は成長し続け、小学校、中学校……成長するにつれてお金は一層かかるようになるものです。「与えること」が習慣になり、教育費などの援助をするようになれば、老後資金はあっという間に減ってしまいます。
また、孫がずっと1人だけとは限りません。この先、長男に第2子が誕生したりすれば、その子への費用もかかります。さらに、同じ孫でもプレゼントや援助に差があると、揉め事に発展することもあります。
こうしたことから、孫費用については、今だけでなく先を見て考えることが必要なのです。
専門家の視点|「孫のため」が老後資金を削る落とし穴に
今回の事例で注目したいのは、順子さんが単なる浪費をしていたわけではないという点です。
一般的に家計が悪化する原因というと、ギャンブルや過度なぜいたくを想像しがちですが、「家族のため」「孫のため」といった善意から支出が膨らむケースも少なくありません。
特にシニア世代は、自分のためにはお金を使わなくなっても、子どもや孫のためなら惜しみなく支出してしまう傾向があります。その結果、自分では気づかないうちに老後資金を取り崩し続けてしまうのです。
また、贈る側は「喜んでくれているはず」と考えがちですが、受け取る側の事情は必ずしも同じではありません。住宅事情や育児方針、持ち物の好みなどによっては、善意のプレゼントが負担になることもあります。
本当に相手の役に立ちたいのであれば、「何が欲しい?」「必要なものはある?」と事前に確認することも大切です。特に高額なプレゼントほど、サプライズよりも事前相談のほうが喜ばれる傾向があります。
老後資金は、長寿化によってこれまで以上に重要になっています。65歳で退職したとしても、その後20年から30年以上生活する可能性は十分にあります。孫を支援すること自体は悪いことではありませんが、まず優先すべきなのは自分たちの生活基盤を守ることです。
「余ったお金で孫を応援する」という順番で考えることが、結果的には家族全体にとっても安心につながるでしょう。孫への愛情は、お金の額ではなく、無理なく長く関わり続けることで十分に伝わるものです。
新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFP®
