
内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、老後の備えとして「財産等の整理・相続の準備」を含む「終活関係の準備」が必要だと考える60歳以上の人は約4割(38.1%)に上ります。しかし、実際に財産を次世代へ譲る際、渡す側の「よかれと思って」の行動が、受け取る側との価値観のズレにより、思わぬ家族トラブルに発展することも……。事例をご紹介します。※事例の人物名はすべて仮名です。
孫息子には「1,000万円」、孫娘には「2万円」
カズサさん(81歳)はもともと、「男の子は家の跡取りとして特別」という昔ながらの価値観を重んじる気質でした。そのため、孫たちに対する接し方には、無意識のうちに差が生まれていたようです。
それは孫たちが幼いころから、生活の端々に現れていました。のちに生まれた孫息子(ミノリさんの弟)のときには「一姫二太郎だわ!」と大喜びして高価な五月人形を贈り、誕生日やイベントのたびに本人の欲しがるおもちゃや衣服を買い与えていました。
一方で、第一子である孫娘のミノリさん(仮名)に対しては、お祝い事もどこか簡素に済ませることが多かったのです。ミノリさんは「おばあちゃんは弟のほうが可愛いんだな」と、幼心にその格差をはっきりと察しながら育ちました。
数年前、カズサさんはテレビの終活特集で「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度」を知ります。そこで、興味を持って懇意にしている銀行の窓口で詳しく確認してみました。カズサさんの口座には亡き夫が遺した不動産の売却益や現役時代の蓄えにより、8,000万円の資産があります。これなら税金をかけずに財産を効率よく渡せると手続きを行うことに。
贈与の対象に選んだのは、やはり将来を期待する孫息子でした。「男の子はしっかり勉強して、いい大学を出て一流の会社に入りなさい」。そう考えたカズサさんは、孫息子の口座に、上限に近い1,000万円を一括で振り込んだのです。
しかしその翌年、孫娘のミノリさんが私立大学への合格を決めたとき、カズサさんの対応はまったく異なるものでした。カズサさんは娘夫婦に対し、「女の子がそんなに無理して高い学歴を身につけなくても」と漏らしており、お祝いとして包んだのは2万円でした。
同じ屋根の下で暮らす姉弟のあいだで起きた、1,000万円と2万円という圧倒的な格差。ミノリさんにとってこの出来事は、幼少期から薄々感じていた「祖母からの軽視」を決定づけてしまいました。
届かない招待状
それから数年が経ち、ミノリさんは人生の伴侶と出会い、結婚式を挙げることになりました。
親族間で結婚式の準備の話題が持ち上がるようになっても、カズサさんのもとには一向に招待状が届きません。「式はいつなの?」「着物はどうすればいい?」とカズサさんがミノリさんの親に尋ねても、返ってくるのはどこか歯切れの悪い言葉ばかりでした。
「あー、まだ席順の調整がついていなくて」「向こうの親戚との兼ね合いで、ちょっとバタバタしてるんだよね」
カズサさんは「身内の席くらい、すぐに決まるでしょ!」と何度も催促しましたが、娘夫婦は「またわかったら連絡するから」と話を濁し続けました。そして結局、具体的な日時や場所を一切教えられないまま、式の季節が過ぎていきました。
