「もらえるお金」という誤解
Aさんは「借りたときはもらえるお金だと思っていた」と語った。こうした感覚は、決してAさんだけのものではない。奨学金を借りる手続きは、大学の入学案内と一緒に届き、書類に記入して審査を通れば毎月口座に振り込まれる。現金が入ってくる体験は「もらう」感覚に近く、「返す」という現実は遠い将来の話として処理されやすい。
しかし社会に出た途端、その構造は逆転する。手取りが思ったより少なく、税金や社会保険料が引かれ、その上に毎月の返済が固定費として加わる。Aさんの「借りたときは気楽に考えていたのに、返す立場になったら全然違った」という言葉は、借りるときと返すときの大きなギャップを象徴している。
コロナ禍という外部要因が重なったAさんのケースは、奨学金を抱えた若者が経済的なショックに対していかに脆弱かを示している。減額制度や猶予制度は存在するが、その存在を知らないまま苦しんでいる返済者は多く、知っても上限があることにあとから気づくという現実もある。
「進学費用を誰が負担するのか」という問い
Aさんは「できるなら奨学金は全部給付型がいい」と話した。この声は、奨学金を返済している多くの若者に共通するものだ。
日本では給付型奨学金の拡充が進んでいるものの、対象は住民税非課税世帯など低所得層が中心となっている。そのため、経済的に余裕があるわけではないにもかかわらず対象外となる家庭では、依然として貸与型奨学金に頼らざるを得ない。
大学進学が事実上のスタンダードとなっている現在、その費用負担を誰が担うのかという問いは、個人だけでなく社会全体で考えるべき課題になっている。給付型奨学金の拡充や対象者の見直しを含め、貸与型だけに依存しない仕組みづくりが求められている。
大野 順也
アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長
奨学金バンク創設者
