
生前に母が作成した遺言どおり、遺された預金1億5,000万円をきょうだい3人で均等に分けることになったマユミさん(仮名・52歳)たち。しかし、長年実家に縛りつけられていた真面目な姉から、衝撃の事実を告白されることになります。本記事では、弁護士の山村暢彦氏が、きょうだい間で起こり得る相続トラブルと、親の財産管理を特定の相続人が担う危険性について、実際の事例をもとに解説します。
親の世話を背負った62歳・独身の姉…遺言書の確認で発覚した「消えた1.2億円」
マユミさん(仮名・52歳)は3人きょうだいの真ん中。実家には、厳格な元教師の母と、無口で母に逆らえない父、そして長女のサユリさん(仮名・62歳)が同居していました。
サユリさんは昔から真面目で控えめな性格。親のいうことには絶対服従で、進学先も就職先もすべて母の指示通りでした。
過去に結婚を考えた恋人がいましたが、「同居して婿に入らない男なんて絶対に許さない」と母に猛反対され、泣く泣く別れた経緯があります。以来、サユリさんは独身のまま、両親の世話を一身に背負ってきました。
一方、マユミさんと弟(48歳)は、息苦しい実家から逃げるように早くに家を出て家庭を持ちました。「面倒なことはすべて姉に押しつけている」という罪悪感はあったものの、つかず離れずの距離を保ち、お盆や正月に顔を出す程度の関係を続けていました。
数年前に父が亡くなり、あとを追うように88歳の母も他界しました。葬儀が落ち着いたころ、生前に母が「家はサユリに譲るが、預金は3人で均等に分けるように」という内容の公正証書遺言を確認することになりました。
遺言書は母が10年前に作成したもので、そこには「預貯金その他の金融資産は、3人の子どもに各3分の1ずつ相続させる」と記載されていました。
また、遺言作成当時の資料や家族の記憶では、母の預貯金は約1億5,000万円あるはずでした。ところが、マユミさんが現在の通帳や残高証明を確認すると、残高はたったの3,000万円しかありません。
「えっ……。1億2,000万円も減ってる? どういうこと?」
母は月に18万円ほどの年金で十分に暮らしており、贅沢をするような人ではありません。10年間で1億円以上が消えるなど、到底考えられないことでした。弟が「まさか詐欺にでも遭ったんじゃ……」と声を荒げたそのとき、マユミさんは姉の異変に気づきました。
サユリさんは顔面蒼白になり、小刻みに震えていたのです。
完璧な姉の裏の顔と「消えた大金」の真相
「……ごめんなさい、私が使ったの」
観念したように、サユリさんは消え入るような声で告白しました。
厳格な母に支配され、結婚も諦めて実家に縛りつけられたストレスは、サユリさんの心を壊していました。母が通帳の管理をサユリさんに任せたのをいいことに、最初はネット通販での散財から始まり、やがて心の隙間を埋めるようにホストクラブにハマり、損失を取り戻そうと投資に手を出して大失敗。
気づけば10年間で1億2,000万円もの大金を溶かしてしまっていたのです。
「私には、これしかストレスを発散する方法がなかった……」と泣き崩れるサユリさんを見て、弟は怒る気力も失っていました。マユミさんもまた、逃げるように実家を出て、サユリさんにすべての重圧を押しつけて見て見ぬふりをしてきた自分たちに責任の一端があることを痛感しました。
後日、サユリさんは「実家を売却して、少しでも2人に現金を渡す。私は安いアパートで一人で暮らすから」と申し出ました。マユミさんと弟は、「そもそも残った3,000万円と家の売却益があれば十分だ。もう姉を責めるのはやめよう」と同意しました。
長年にわたる親への服従と引き換えに、莫大な財産を食いつぶしてしまった姉。きょうだいの溝を埋め、本当の意味での家族関係を築き直すには、まだしばらくの時間が必要になりそうです。
