彼女はいるけれど「結婚もしない」…息子の価値観
ヒロミチさんが実家を出ない背景には、結婚や家族に対する価値観の変化も影響していました。
実はヒロミチさんには、数年前から長く付き合っている同世代の彼女がいます。しかし、二人のあいだで具体的な「結婚」の話題が出ることはありません。ヒロミチさん自身、「いまの社会状況で子どもを持たない選択をするなら、あえて籍を入れて結婚する必要性を感じない」という考えを持っています。ヒロミチさんの彼女も自立して働く会社員であり、彼女も同意しているとのこと。
お互いに自分のベースや実家での暮らしを大切にしながら、週末に会ういまの距離感が居心地がいいと割り切っているそうです。
「子どもを育てる余裕もないのに、世間体のために結婚して新居を構えるなんてリスクでしかない。彼女も同じ意見だから、お互い実家暮らしのまま資産形成に励むのがいいんだ」
そう平然と言い切る息子の姿に、「結婚して、家を買い、子どもを育てて一人前」という一歩一歩を血の滲むような思いで踏み出してきたムサシさんにとっては、どうしても受け入れがたい隔たりを感じずにはいられませんでした。
母の「甘やかし」と、年金生活を圧迫する見えないコスト
さらにこの状況を複雑にしているのが、ヒロミチさんの母の存在です。母は「いつまで親の脛をかじり続けるんだ」と憤るムサシさんとは対照的に、どこか息子を庇うような態度を取ってしまいます。
「ヒロミチが家にいてくれたほうが、防犯面でも頼りになるし安心じゃない。それに彼女さんも理解してくれているんだから、いまのままでいいじゃないの。ご飯だって、2人分作るのも3人分作るのも大して手間は変わらないわよ」
母にとっては、39歳になったいまでもヒロミチさんは可愛い我が子のままなのです。身の回りの世話を焼くことに、無意識のうちに生きがいを感じている節もありました。
しかし、年金生活に入ったムサシさん夫婦にとって、現役世代の成人男性が一人増えることによる食費や水道光熱費の負担は、ヒロミチさんが入れる月3万円では決して賄いきれるものではありません。なにより、高齢期に入った母が、アラフォー息子の食事や洗濯、掃除といった「見えない家事労働」を日常的に担い続けるという体力的な負担は、年齢とともに確実に重くのしかかっています。
