◆過酷な生育歴は表現活動にどう影響するか

紫音:どうなんでしょう、断定はできないものの、否定もできないですよね。確かに、不特定多数に対してのふわっとしたコミュニケーションが不慣れだったとは思います。なぜなら、家庭で少人数を相手に命がけのコミュニケーションをした経験しかないからでしょうね。アイドル時代のファン対応は反省すべきことがたくさんあって、SNSで私をみかけて「可愛い」と思ってきてくれた人が、物販での私のコミュニケーション力のなさに驚いてしまうこともあったようです。本当にひどいときは目を見て話すこともできなかったんですよね。ちょっとした世間話みたいなものが致命的にできなかったんです。
今はいろいろな人の助言のおかげで、徐々に改善できたと思います。
――アイドル引退直後に、大学に入りますよね。大学名は非公開ながら、名門大学です。勉強は好きだった。
紫音:いやいや、そこまで頭のできがいいわけではないのですが……。メンタルの不調などから卒業まで人よりも時間を要しましたし。ただその学生生活で、自分が法律的な文章に触れるのがとても好きなことはわかりました。思えば、自分でなにか文章を書くときも、情緒的な文章を書くよりも事実を理路整然と書くほうが好きなんですよね。
――意外ですね。音楽をやっているので、情緒に訴えかけるようなリリックのほうが得意そうにみえました。
紫音:たとえばSNS発信についても、言葉を尽くして行間を埋めてしまうクセがあって……。自分の価値観や思想について1から順番に情報を説明してしまう傾向があって、お客さんも困惑していたかもしれません(笑)。もっとその場のノリとかテンションに応じた言葉を投げかけるべきだったのでしょうけれども、それができなくて。誤解のない文章を書こうとするのと同じように音楽をやると、うまくいかないことを経験しました。なるべく行間を埋めないように今は音楽をやっています。ファンなどの受け取り手の解釈の余地を残すことが大切なんだなと最近は学びました。
――なぜそこまで学術的な文章の組み立てに憧れるんでしょうね。
紫音:ふわっとした世間話みたいなことを苦手とする一方で、目的を持ったものであれば懸命に探求したいと思うからでしょうか。あと、個人的には法の条文が好きなのはやはり生育歴も関係するかも、とは思います。法律って、どんなに野蛮なことが起きていても、それを極めて冷静で理性的に対処しようとする態度が現れていると思うんですよ。話し合いよりも暴力で解決するような家庭だったからこそ、法の持つ厳かさに惹かれるのかもしれません。
◆肩書きに「矛盾を成立させる意味を込めた」
――紫音さんは“バレエパンクアイドル”を名乗っておられますが、これはどういう意味でしょうか。紫音:バレエという気品に満ちた気高さと、パンクという反骨の融合を表しています。人間、何か一つの属性であり続けることはむしろ少なくて、ときとして真逆に思えるものがひとつの身体に同居していることもあると思うんです。活動テーマの「バレエパンク」には、矛盾を同時に成立させる、という意味を込めています。
――復帰からのライブ本数は目を見張りますよね。
紫音:復帰したのが今年2月で、5月までに22本のライブを行うなど前向きに活動しています。ただ、オリジナル曲がないため、現在制作を進めている最中です。8月16日に、初集会となる主催ライブを企画しているとこです。
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紫音さんはきっと、誰より言葉に飢えていて、誠実だ。対話ではなく拳で抑圧される時間が長かったからこそ、必死に誰かを理解しようとする。曖昧に飾った言葉を煙たがり、奥にある本質でのやり取りを求める。
既存のアイドル像からかけ離れたその音色で、空間を塗り替える。それは上っ面だけを撫で回す気持ちいい音楽にはならないかもしれない。人によってはカンナで精神を削られる痛みが伴うだろう。それでも、彼女の音楽だけが向き合わせてくれる世界がきっとある。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

