「介護認定がなくても働けなくなる」見落とされがちなリスク
高齢期のリスクというと、多くの人は認知症や要介護状態を思い浮かべます。しかし実際には、介護保険サービスを本格的に利用する状態ではなくても、本人や家族の働き方が大きく変わるケースがあります。
厚生労働省「国民生活基礎調査(2022年)」によると、要介護・要支援となった主な原因として、脳血管疾患(脳卒中)は全体の約16.1%を占め、認知症に次ぐ第2位となっています。脳梗塞や脳出血は、高齢者だけの病気ではありません。50代後半から60代前半は、仕事の責任が最も重い時期である一方、健康リスクも高まる年代です。
さらに共働き世帯では、「夫婦とも65歳まで働く」ことを前提に老後資金計画を立てているケースが少なくありません。だからこそ、一方が働けなくなった場合の影響は想像以上に大きくなります。
今回の田中さん夫婦も、そうでした。武さんは介護を必要とする状態ではありませんが、それまで通り働くことはできません。
また、貯蓄不足だったわけでもありません。むしろ計画通りに老後準備を進めていました。しかし、「これから得られるはずだった収入」が消えたことで、老後設計そのものの見直しを迫られることになったのです。
共働き時代こそ考えたい「死亡保障以外」の備え
田中さん夫婦のケースが教えてくれるのは、「万が一」とは死亡だけではないということです。多くの家庭では生命保険などで死亡保障を準備しています。
一方で、病気や障害によって働けなくなるリスクへの備えは十分でないケースも少なくありません。住宅ローンに付帯する団信(団体信用生命保険)も、高度障害の認定基準は身体機能の重度な喪失が中心であることが多く、高次脳機能障害は対象外となるケースがあります。武さんの場合も該当しませんでした。
会社員であれば、まず確認したいのが傷病手当金です。健康保険の被保険者が病気やケガで働けなくなった場合、一定条件を満たせば給与のおおむね3分の2相当額が支給されます。 また、勤務先によっては私傷病休職制度やGLTD(団体長期障害所得補償保険)など、長期の所得減少を補う制度が用意されている場合もあります。
こうした福利厚生だけではカバーしきれない場合、就業不能保険や所得補償保険といった民間保険も選択肢です。これらは病気やケガで一定期間働けなくなった際に、月々の収入相当額の一部を補う保険です。共働き世帯では、夫婦それぞれが加入することで、どちらが倒れても家計へのダメージを最小限に抑えられます。
さらに、脳梗塞後の高次脳機能障害などによって日常生活や就労に大きな制限が生じた場合には、障害年金の対象となる可能性もあります(※2)。ただし、制度の適用には個別の要件があります。いざという時に慌てないためにも、自身の勤務先の福利厚生制度や公的保障を一度確認しておきたいところです。
老後資金の準備というと、資産運用や年金額に目が向きがちです。しかし共働き世帯が増えた今、本当に考えるべきなのは、「どちらかが働けなくなった場合」かもしれません。
