
本企画は「ボルドー・プリムール2025 特別レポート」の後編となります。
前編は下記URLよりお読みいただけます。

ボルドー・プリムール2025 特別レポート
右岸九景――「少収穫の当たり年」を巡る旅《前編》
ポムロール/サンテミリオン 有力9シャトー訪問記 - ワイン王国
2025年、ボルドー右岸は「少収穫の当たり年」を迎えた
ボルドー2025年産プリムールは、近年まれにみる高揚感とともに幕を開けた。猛暑と長期の乾燥に見舞われながら、昼夜の大きな寒暖差と、干ばつ明けの8月末の絶妙な降雨が、凝縮と瑞々しさを併せ持つ果実をもたらした。アルコールは穏やか、タンニンは緻密に熟し、驚くほどの新鮮さを備える、早くから楽しめ、長期熟成にも耐える、専門家が「新しいボルドー」と呼ぶスタイルである。批評家からは100点満点が多く飛び出し、2022年や2016年、さらには2009...
6. シャトー・ジャン・フォール――「太陽(スーリャ)」と名付けられた復活の結晶

2025年ヴィンテージは、サンスクリット語で「太陽」を意味する「Surya(スーリャ)」と名付けられた
シュヴァル・ブランやフィジャックに隣接する絶好の地、サンテミリオンの粘土質台地の中心部に18haの単一区画を持つジャン・フォールがある。かつて「グルヌイエール(カエルの生息地)」と呼ばれた湿地帯だ。驚くべきは右岸では珍しいCFが古くから65%も植えられていたこと。理由は歴史の謎だが、苗木はオーゾンヌ由来のセレクション・マサルというから血統は申し分ない。
冷凍食品「ピカール」を売却し、1999年にルーションのマス・アミエルを買収してブドウ栽培に参入したオリヴィエ・ドゥセル氏が、このシャトーを購入したのは2004年。前オーナーの死去や子息の事故で荒廃していた畑と醸造所を、排水整備、2017年オーガニック、2022年醸造所新設、2023年ビオディナミ認証と、「魔法のテロワール」を表現すべく膨大な投資を続けてきた。氏夫妻はいつも自然で、人をそらさない魅力がある。

18haの単一区画が広がるジャン・フォールの全景
2025年は、サンスクリット語で「太陽」を意味する「Surya(スーリャ)」と名付けられた。3月29日の理想的な芽吹き後、5月の天候不順が結実不良を招き自然な収量制限に。ヴェレゾンは7月17日に始まり、8月6〜17日は12日連続30℃超、最高41.3℃の熱波に見舞われたが、8月20日の恵みの雨(30mm)が熟成を再始動させ、史上最も早い9月4〜18日に収穫した。ドゥセル氏が追うのは「ブルゴーニュ的」な繊細さと緊張感だ。少量の完熟CFの茎を圧搾に加えフレッシュさを与えた。ブレンドはCF65%、M33%、マルベック2%、アルコール13.5%、pH3.65、総酸度3.15g/L、生産4万6千本。熟成はオーク大樽40%、新樽25%、1年使用樽25%、コンクリートと陶器製エッグ10%だ。
CF65%という構成はサンテミリオンでも類を見ず、ロワールでも新世界でもない「粘土の上のフラン」の可能性を示す1本だ。試練と歴史、人々の情熱が「太陽」の輝きとして詰められた2025年は、ジャン・フォール復活の20年余を締めくくる精緻なヴィンテージである。

2025年ヴィンテージ「Surya(スーリャ)」数値サマリー
7. シャトー・ラ・ガフリエール――バイキングの末裔が掲げる「透明性」

400年の家系図を指す、オーナーのアレクサンドル・ド・マレ・ロシュフォール氏
サンテミリオンの「黄金の三角地帯」に位置するラ・ガフリエールを所有するマレ・ロシュフォール家は、1705年からこの地でワインを造ってきた。現当主アレクサンドル氏は32世代、子供たちは33世代。ルーツはノルマンディーのバイキング、ロロンや征服王ギヨームの仲間ギヨーム・マレに遡る壮大な家系だ。試飲ルームに架かる400年の家系図は壮観である。
多くが2022年の再来を予想したが、結果は全く異なった。3月15日の早い萌芽、5月下旬の均一な開花を経て、7〜8月の強い水ストレスで果実は凝縮。8月末の恵みの雨が成熟を再加速させ、フレッシュさと酸、美しい果実味を備えた「今の時代が求めるワイン」に仕上がった。メルロは9月4〜24日、CFは9月19〜25日に収穫。グラン・ヴァン(M65%、CF35%)はアルコール13.8%、pH3.41、収量39hl/ha、熟成は新樽50%でアンフォラも併用。アレクサンドル氏は構造を「サッカーボールよりラグビーボールのような形」と表現する。縦に伸びるエネルギーと洗練された輪郭だ。格付け離脱後も品質向上は目覚ましく、最上位を脅かすコスパを誇る。
ポートフォリオも多彩だ。1980年代誕生のセカンド、クロ・ラ・ガフリエール(M80%、CF20%、40hl/ha)はフランスのスーパーで熱狂的ファンを持ち、1本12ユーロの価格が話題だ。「12万本のボリュームがあるからこそブランドの存在感を示せる」と彼は語る。ピュイブランケは1807〜1959年に家族が所有し、2020年に買い戻した畑。標高80mの粘土石灰質で2025年は38hl/ha、M70%・CF30%、13.7%、pH3.40、500L樽で熟成。「歴史の香りがする場所」と慈しむ野生的な土地だ。ボルドー・シュペリュールのシャペル・ダリエノールは、あるジャーナリストの紹介でノルウェーで半年に2万5千本を売った。「ブランド確立を怠っていた」との反省から、戦略ブランド「D・ド・マレ・ロシュフォール」も展開する。

アレクサンドル・ド・マレ・ロシュフォール氏と妻のアリエノールさん
アレクサンドル氏の率直な批判はプリムールビジネスにも向かう。「多くのネゴシアンが価格競争に終始し、マーケティングをしていない」と断じ、自ら世界中のディストリビューターと直接対話して価格の透明性とブランド価値を守る。「2025年は、我々が求めるフレッシュさがベースにある」と彼は強調した。家系の誇りと現代的価値観が融合している。

主要銘柄テクニカルスペック(2025年)

ブランド・ポートフォリオ

