配当還元方式の対象となる非上場株式
吉田課長「非上場株式のなかで、具体的にどんな株が配当還元方式の対象になるんですか?」
下記5.(2)をみてください。
5.配当還元方式による評価額(財産評価通達188-2)
(2)(1)の配当還元方式が適用される非上場株式(財産評価通達188)
4つのタイプが定められている。ここでは代表的な2つを取り上げる。
①同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主が取得した株式
同族株主とは、相続開始日における評価会社の株主のうち、次のイまたはロの要件を満たす株主をいう。
イ.議決権割合が30%以上
株主の1人とその親族など個人の同族関係者、(3)の法人である同族関係者(法人税法施行令4条。これらをまとめて「株主等」、「株主グループ」という)の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の30%以上であること。
ロ.議決権割合が50%超
株主等の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%を超えていること。
②同族株主のいない会社の株主のうち、相続開始日における株主等の議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%未満である場合の、その株主が取得した株式
(3)法人である同族関係者
①規定(法人税法施行令4条2項)
たとえば、同族会社を判定しようとする会社の株主等の1人が「他の会社を支配している場合」におけるその他の会社など、3つのタイプの会社を法人である同族関係者としている。
②①の株主等の1人が「他の会社を支配している場合」(法人税法施行令4条3項)
たとえば、「他の会社の発行済株式(自己株式を除く)の総数の50%超を保有している場合」をいう。
③ ある株主との間で、ある株主の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している同意者(「同意者の規定」。法人税法施行令4条6項)
次のイ、ロの事項をそれぞれみなすことにより、②の株主等の1人が「他の会社を支配している場合」に規定する50%を超える株式を保有しているか否かを判定する。
イ同意者が有する議決権は、法人である同族関係者が有する。
ロ法人である同族関係者(同族判定対象会社の株主等であるものを除く)は同族判定対象会社の株主等である。
1つ目は、「同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主が取得した株式」です。
同族株主とは、株主本人と個人である同族関係者、法人である同族関係者(株主グループ)が持つ議決権を合計したとき、その割合が発行済株式総数の30%以上となる株主のことをいいます(上記5.(2)①イ)。この場合は、最大で3株主グループが同族株主になります。ここでいう「法人である同族関係者」とは、発行済株式総数の50%超を保有している会社を指します(上記5.(3)②)。
もう1つは、その会社の発行済株式総数の50%超の株式数を保有している株主グルー
プです(図表の5.(2)①ロ)。この場合は、50%超の株式数を保有している株主グループだけが同族株主になります。
2つ目が、上記5(2)②の要件を満たす場合にその株主が取得した株式です。具体的には、次の①と②の両方を満たす会社の株式が対象になります。
①同族株主のいない会社であること
②相続開始日のその株主グループの議決権数の割合が、15%未満であること
会社を支配しているかどうかは、議決権割合の多寡で決まります。この2つ目のケースは、議決権30%以上を持つような支配的な株主グループが存在せず、さらにその株主が属する株主グループの議決権が15%未満である、いわゆる「少数株主」に該当します。
そのため、このような少数株主が持つ株式については、配当還元方式を使って評価することになります。
【判例】オーナー経営者でも配当還元方式が認められたケース
吉田課長「オーナー経営者は、配当還元方式による評価は使えないということですか?」
一般に、オーナー経営者は持ち株比率が高いため、配当還元方式が使えないことが多いと思います。しかし、認められた事例があります。下記6の裁判例(平成29年8月30日・東京地裁)がその一つです。
6.配当還元方式による評価が認められた裁判例(平成29年8月30日東京地裁)
(1)概要
A社を経営している甲(被相続人。相続開始日は、平成19年12月▲日)は、平成16年2月に(2)のB社を設立した。
①平成19年8月1日
甲は、自身が保有するA社株式のうち72万5,000株(発行済株式総数の7.88%。A社の株主構成の推移は(3)参照)を、1株当たり75円、総額5,437万5,000円でB社に譲渡した。
②平成19年8月10日
D社(4)は、B社に対し5,437万5,000円を、年2.2%の利息、返済期限を平成29年8月末日とする条件で貸し付けた。B社はこの資金を使って、甲にA社株式の代金を支払った。その結果、相続開始直前のA社の株主構成は(3)の「相続開始直前」欄のとおりとなった。
(2)B社
平成16年2月設立。資本金300万円。株主は、A社設立時の役員(H、I、J)、その後に就任したB社の取締役、従業員(M、N、O、P、Q、R、S)の計10名で、株式は分散して所有している。
(3)A社
昭和25年9月設立。資本金は4億6,000万円。株主構成とその推移等は、下表のとおり。
(4)D社
平成3年5月設立。A社がD社の発行済株式をすべて有していた。
(5)C社
昭和62年12月設立。資本金は1億1,540万円。①、②が主要株主。
①甲の配偶者、甲の子(乙、丙、丁、戊)……32.6%
②A社の従業員持株会、B社、A社の役員・従業員(甲の①の親族を除く)……32.7%
A社を経営していた甲社長は、A社株式を譲渡した約5カ月後の平成19年12月に亡くなりました。A社株式の相続税評価をめぐり、裁判となりました。
注目すべきポイントは、平成16年2月のB社設立です。B社の株主はA社の役員と従業員で構成されており、甲社長やその親族は株主になっていませんでした。
平成19年8月1日、甲社長は自身が持っているA社株式のうち、発行済株式総数の7.88%にあたる72万5,000株を、1株75円、総額5,437万5,000円でB社に譲渡しました。B社は、A社の子会社であるD社から同額を借り入れ、その資金で株式代金を支払いました。
争点となった「同族株主」の判定
吉田課長「甲社長がA社株式を譲渡した目的はなんですか?」
甲社長とその親族(甲一族)が保有していた、将来、値上がりする可能性のあるA社株式の一部を相続財産から除外し、さらに残りのA社株式の評価額を引き下げることが目的でした。
A社の株主構成は前掲6.(3)のとおりで、甲一族の議決権割合は、B社へ株式を譲渡する前は「22.79%」でした。
しかし、譲渡後は「14.91%」まで下がりました。つまり、配当還元方式が使える「同族株主のいない会社」の要件である議決権割合「15.00%」未満の状態になったということです。その結果、相続税の申告ではA社株式に「配当還元方式」が適用されました(前掲5.(2)②)。
吉田課長「税務署長の判断は?」
税務署長は、配当還元方式による評価額を認めず、類似業種比準価額による評価額へ増額修正をする更正を行いました。そのため、この件は裁判に発展しました。
税務署長は、甲一族(持株割合14.91%)、B社(同7.88%)、C社(同24.18%)が同じ同族株主のグループに属するため(合計46.97%≧30%)、A社は「同族株主のいる会社」(前掲5.(2)①イ)に該当し、甲一族は同族株主に当たると主張しました。
吉田課長「法人である同族関係者の要件は、その法人の株式の50%を超えて所有している必要があるのでは?」
そのとおりです。B社の株主には甲一族は含まれていません。また、C社における甲一族の持株割合も32.6%にとどまっています。したがって、両社とも「株式の50%超を所有している」という要件を満たしていません(前掲5.(3)②)。
そこで税務署長は、B社とC社について、次の(1)〜(3)に該当するため、甲社長が相続開始時に所有していたA社株式(持株割合8.00%)は「同族株主が取得した株式」に当たる、という別の主張をしました。
(1)前掲5.(3)③の「同意者の規定」に該当する。
(2)それゆえ、前掲5.(3)②の「他の会社を支配している場合」に該当する。
(3)したがって、B社とC社は法人である同族関係者に該当する。
裁判所の判断
吉田課長「裁判所はどう判断したのですか?」
次の(1)、(2)の理由を示したうえで、「仮にC社やB社が、A社や原告と同じ内容の議決権を行使することに同意していたとしても、評価会社であるA社の議決権割合を判定する際に、C社やB社の議決権をA社や原告が持っているものとみなすことはできない」と判断し、税務署長の主張を退けました。
(1)同意者の規定は、ある法人が「法人である同族関係者」に当たるかどうかを判断するために設けられた規定である。
(2)同意者の規定は、前掲5.(2)①イ、ロの議決権割合が30%以上、50%超の判定に用いることはできない。
吉田課長「すばらしい相続税対策でしたね」
この裁判における納税者の勝因としては、次の(1)~(3)が考えられます。
(1)相続税法の規定を精緻に読み込んで、相続税対策をしたこと。
(2)甲社長が元気なうちから、相続(税)を見据えた行動を起こしていたこと。たとえば、一部のA社株式の移転先として約3年前にB社を設立していたこと。
(3)A社株式の評価を配当還元方式で行えるようにするため、同社株式の一部を甲一族以外のB社に移転したこと。
なお、経営の視点からみると、甲一族のA社株式の持株割合は減少しました。しかし、A社株式を移転したB社に対して事実上の支配力を持つことで、A社に対する経営権は引き続き確保しています。
多田 雄司
税理士
