◆“言ってはいけないホントのこと”が与えた影響

ご存知の通り、この発言はブラジル代表の選手たちの闘志に火をつけ、「絶対に負けられない」という覚悟を植え付けました。日本に先制された後、“ブラジルらしからぬロングボール”を放り込む戦術を徹底してきたのも、この覚悟と決意がもたらした変身だと言えるでしょう。
つまり、塩貝選手がブラジル代表とネイマール選手を“正確に”評論してしまったことで、その評価を上回るだけのエネルギーを与えてしまった可能性すらあるのです。
現場の最前線にいる人間の選択として、塩貝選手の発言は完全に間違っていたと言わざるを得ません。言葉の内容と論理において正確すぎたがゆえに、大局的な戦況を不利に陥らせてしまった。大炎上を受け、塩貝選手は真意とは異なる切りとられ方をしたと訴えていましたが、時すでに遅し。確かに発言の一部分ですが、ブラジル代表の歴史とその象徴的な存在を軽んじたという事実までは訂正できません。
もちろん、塩貝選手なりにチームを鼓舞したいという思いがあったのかもしれませんが、相手を落とす形の論法は、あまり筋がよくありませんでした。
◆美味しいキャッチフレーズと決定的な間違い
「だったら、日本のメディアも報じなければここまで大事にならなかったのに」とメディアの責任を問う声もあるでしょう。ですが、塩貝選手の「昔のネイマールでしょ」は、それだけキャッチーで、見出しに使えるパワーワードだったのです。こんなに“おいしいキャッチフレーズ”をお蔵入りにしてしまっては、それこそメディアの存在意義が問われます。報じられるのは必然だったと言えます。
評論家的なクールな言語感覚を、勝負の現場で使ってしまった。この判断こそが、決定的な間違いでした。塩貝選手の大炎上は、成長著しい日本代表にとって、高くついた想定外のアクシデントだったと言えるでしょう。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。X: @TakayukiIshigu4

