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「亡きがらをツノに絡ませたシカ」で日本人初の快挙。それでも「写真はあくまで趣味」北海道の高校教師が明かした本音

「亡きがらをツノに絡ませたシカ」で日本人初の快挙。それでも「写真はあくまで趣味」北海道の高校教師が明かした本音

―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

北海道に移住し、高校教員として働く傍ら、野生動物の写真を撮り続けている柳楽航平さん。世界的な写真コンテストに入賞を果たすも、「写真はあくまで趣味」だと言う。彼を突き動かしているものは何なのか、“趣味の写真”を通じて何を訴えたいのか。高校を訪ねた。

エッジな人々
柳楽航平さん

◆誰もが撮れる動物の、誰も撮れない瞬間を写す

 雄大な自然が残る北海道の東部で、本業は高校教員でありながら野生動物の姿を写真に収める柳楽航平さん。彼が撮った(※1)エゾシカの写真は、今年3月、世界最高峰ともいわれる野生動物写真コンテスト「(※2)ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」の一般投票部門で、6万点超の応募の中から上位5作品に入賞。日本人初の快挙となった。そんな柳楽さんの写真に引かれ、個展にも足を運んでいるのが作家(※3)こだまさん。北海道と縁もゆかりもなかった柳楽さんを突き動かしているものは何か。こだまさんがその素顔に迫る。

――このたびは入賞おめでとうございます。一報を受けた時の率直な心境を聞かせてください。

柳楽:あまり実感が湧かなかったです。部活の大会と重なって、授賞式に出られなかったこともあり、余計に。

――入賞した「亡きがらをツノに絡ませたエゾシカ」の写真はどこで撮られたんですか?

柳楽:野付(のつけ)半島で出合いました。当時はその近くに住んでいたので、計4~5か月ぐらいかけて撮影しました。地元の方の間ではちょっと話題になってましたね。「なんかヤバイのいる」って。

エッジな人々
「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」での入賞作「Never-ending Struggle」
――こんな重い頭部を担ぐような状態でも、シカは生きていけるんですか?

柳楽:シカは毎年4月ぐらいにツノが抜け落ちるんですが、その頃に見た時も丸々太っていたので無事だったんでしょう。受賞作のシカは苦しそうでもなくて、普通に明るい何げない表情。僕らはこういう生き物を見ると「かわいそう、助けてあげたい」とか衝撃的なドラマを想像しちゃうんですけど、彼らにとっては別になんてことないのかもしれない。普通に生きてますよ、みたいなあっけらかんとしてるところを撮りたかったんです。

――タイトル「Never-ending Struggle(終わらぬ戦い)」に込めた思いはなんですか?

柳楽:5年前にネットでバズった際には「勝者だ」とか書かれていたんですけど、僕には孤独に見えました。群れから追い出され、草木も食べにくそうで、勝者とは言い難い。まだまだ戦っていて、ツノに相手の亡霊がいるような感じ。戦いは終わってないんだな、と。

――昨年10月には、「ツノが光り輝くエゾシカの写真」がアメリカの自然写真コンテストで上位入賞を果たしましたね。

エッジな人々
エゾシカのツノが光る瞬間をとらえた「Shining Antlers」。光っているのは太陽光を受けたツノの産毛
柳楽:カメラを始めた頃、露出の設定をミスって、逆光の状態で撮ってしまったんです。顔は暗いけど、バックの光が当たって、ツノが浮かび上がりました。いろいろ調べたら、夏のツノには産毛が生えていて、それが光をキャッチしているそうです。


◆旅人の言葉に導かれて、北海道東部へ移住

――’17年に愛媛の大学を卒業後、北海道に移住したそうですね。もともと教員志望でしたか?

柳楽:教員免許を取れるコースだったので選択肢にはありましたが、普通に就活してました。出身地の島根の企業などを受けていて、会社員として働く予定でいたんですけど。

――ガラッと変わりましたね。

柳楽:大学3年生の終わりに旅した屋久島で、日本一周した2人と同じ宿になりまして。2人とも北海道の東側がめっちゃ良かったって言うんです。いろいろ調べたら、ネット掲示板に「北海道の先生になったら東のほうの海沿いとか島に飛ばされて最悪」みたいなスレを見まして。教員免許あるし、これ、応募したら喜んで採用してもらえるんじゃないかって(笑)。

エッジな人々
柳楽さんに質問する作家こだまさん(左)。匿名で活動しており、この日のために買ったシカの仮面をかぶっている
――で、本当にかなっちゃったんだ。そんなことあるんですね。

柳楽:面接試験で「赴任地は選べないですけど希望とかありますか?」って聞かれて、「東の海沿いとか島がいいですね」って言ったら、面接官3人がめちゃくちゃ笑ってて。

――その一言で決まりましたね。

柳楽:嬉しそうな顔でしたね。

――カメラを本格的に始めたのは移住後ですか?

柳楽:そうですね。引っ越してすぐ野付半島に行ったんです。エゾシカがたくさんいて感動して、もう単純に「撮りたい!」と思いました。

――初めからエゾシカが撮影の中心だったんですか?

柳楽:最初は摩周湖とか屈斜路湖、知床、美瑛のお花畑、青い池などの自然を撮りに行きました。きっかけはコロナで、いろんなところへ行きづらくなったこと。近くにめちゃくちゃ素晴らしい自然があるし、シカもいる。それを撮ればいいって。あと、反骨精神もありました。地元のカメラマンに「あんなのどこにでもいて、誰でも撮れる」みたいに言われたので、エゾシカで誰にも撮れないような、誰もがかっこいいねって言うような作品を撮ってみよう、と。

エッジな人々
柳楽さんが「いちばん気に入っている」と語る作品「交剣知愛」。剣道の言葉で、“剣を交えて愛しむを知る”という意味
――実は私もシカが多い土地で育ったので「なんでエゾシカ?」と思ったひとりです。でも、柳楽さんの作品は頭の中のシカ像を見事に覆してくれました。

柳楽:ありがとうございます。(※4)シマエナガやヒグマは対象物としての強さがあり、撮れただけですごい。でも、価値がないように見えるエゾシカも、いざ目の前に出てきたら、みんな写真を撮るでしょう。北海道では害獣で、嫌われ者ですけど、革に使われるし、肉もおいしい。飲食店に行くとツノが置いてあったり。なんだかんだみんな、嫌いだけどちょっと好きみたいな。僕の好きな写真家さんに(※5)井上浩輝さんという、キタキツネを撮る方がいらっしゃるんですけど、キタキツネもエゾシカと同じようにちょっと嫌われてるんです。どこにでもいて、誰でも出合える。だからこそいろんな景色と一緒に撮れてバリエーションが豊富になる。そういうのをエゾシカでやりたいなと思いました。

配信元: 日刊SPA!

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