
物価上昇や老後資金の不安から、「給与以外の収入源を持ちたい」と考えている会社員は多い。こうしたとき、“不労所得”として手堅い選択肢のひとつが「不動産投資」だ。当然ながら、投資用不動産を購入する際には、契約内容を注意深く確認する必要がある。「信頼できる会社だから」「周りの同僚もやっているから」と丸投げしてしまうと、トラブルが起きたときには一切の盾にならない――。本記事では、陽なた法律事務所代表弁護士の松井竜介氏が、30代会社員の事例とともに、不動産投資で見落としてはいけない融資・契約上の注意点を解説する。※個人情報保護の観点から、登場人物の情報を一部変更している。
年収800万円・30代会社員が始めた「区分マンション投資」
「いまからなにか準備しておかないと、将来が不安で……」
Aさん(30代男性)は、大手企業に勤務する会社員だ。年収は約800万円と安定しており、生活に困る状況ではない。しかし、物価上昇や老後資金への不安から、「給与以外の収入源を持ちたい」と考えるようになった。
そんなとき、Aさんは同僚が不動産投資をやっていることを耳にした。その同僚を介して、Aさんは不動産会社へ一度相談してみることに。そして勧められたのが、約3,000万円の区分所有マンションだった。
営業担当者は、会社員としての信用力を強調した。
「会社員の方は融資が通りやすいんです。ローン返済も毎月の家賃収入で賄えますから、将来的には老後の年金代わりにもなりますよ」
Aさんにとって、その説明は魅力的だった。
担当者から提示された収支シミュレーションを見る限り、毎月の家賃収入とローン返済額はほぼ同程度。大きな持ち出しもなく、長期的に保有すれば資産形成につながるように思えた。
さらに、金利は2%程度だという。Aさんはこの「2%」について、購入金額3,000万円に対して年間2%程度の負担が発生するものだと理解した。
しかし、実際のローン金利は、借入残高に対してかかる年利である。毎月の返済額には元本返済分と利息分が含まれており、単純に「借入額×2%」で判断できるものではない。ところが、Aさんが受け取った資料では、毎月の支払額こそ記載されていたものの、元本と利息の内訳までは十分に示されていなかった。
それを知らないAさんは、「家賃収入でローンを払える」「収支はほぼトントン」という認識のまま、購入を決断した。そして契約は進み、融資も実行された。
ここで終われば本当に収支はトントンで大きな損失もなく、単にAさんが「不動産取引に不慣れだった」で済んだかもしれない。しかし、購入後にAさんは大きな疑問を抱くことになる。
「このローン、本当に投資用ローンなんだろうか」
「担当者のせい」は通用しない…ローンの“用途違い”の代償
きっかけは、知人とのなにげない会話だった。
「それ、本当に投資用ローンなの? 住宅ローンじゃない?」
そう指摘され改めて確認してみると、融資の前提が「本人が居住する住宅の取得」となっている可能性が浮上したのだ。不安になったAさんは、不動産会社へ問い合わせた。すると担当者は落ち着いた様子でこう答えた。
「名目上は居住用ですが、問題ありませんよ。サブリースにすれば大丈夫です。家賃収入で返済できますし、同じような形で購入している方も多いです」
しかし、Aさんの不安は消えなかった。もし金融機関が、融資申込み時の説明と実際の利用状況の違いに気づいたらどうなるのか?
「住宅ローン」は本来、購入者自身が居住する住宅を取得するための融資商品である。この点、投資用不動産には空室リスクや賃料下落リスクがあるため、金融機関は住宅ローンとは異なる基準で審査を行う。そのため、融資契約の前提と実際の利用状況が異なる場合、金融機関とのあいだで問題が生じる可能性がある。
具体的な対応は契約内容や金融機関の判断によって異なるが、たとえば下記のような点が問題となりうる。
・融資条件の変更
・返済方法についての再協議
・残債の一括返済を求められる可能性
・今後の融資取引への影響
・場合によっては刑事上の問題に発展する可能性
「営業担当者にいわれた」「ほかの人もやっている」という事情だけで、必ず責任を免れるわけではないため、注意が必要だ。最終的に融資契約を締結するのは投資家本人であり、契約内容を確認する責任も本人にある。もっとも、実際にどのような責任が生じるかは、融資申込時の状況によって変わる。たとえば、
・金融機関に対してどのような説明をしていたのか
・投資家本人は融資条件をどのように理解していたのか
・不動産会社からどのような説明や勧誘を受けていたのか
といった事情を確認しなければならない。不動産投資では、営業担当者の説明だけでなく、最終的に締結した融資契約の内容が重要になる。
Aさんは、「購入前に契約内容をもっと確認すべきだった」と痛感した。
