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米・航空会社のミスで露呈した「AI値上げ」の真実。AIが”高くても買う人”を勝手に選んでいた

米・航空会社のミスで露呈した「AI値上げ」の真実。AIが”高くても買う人”を勝手に選んでいた

◆■学割はよくて、“葬式割増”はなぜダメなのか?

では、AIによる個人別価格は許されるのでしょうか。

意外に思われるかもしれませんが、JetBlueを訴えた原告側ですら、訴状の中で「監視価格そのものはアメリカでは違法ではない」と認めています。争点は、同意なくデータを収集し、それを開示していなかったこと。現時点のアメリカには、この行為の是非を正面から定めたルールが存在しないのです。だからこそ今、猛烈な勢いで線引きの議論が起きています。

学割と監視価格は、何が違うのか。ぼくは「ルールの透明性」だと思います。学割も早割も、条件は全員に公開されていて、自分がなぜその価格なのかが分かる。一方の監視価格は、なぜその値段なのか本人にすら分からない。しかも学割が弱い立場の人を安くする仕組みなのに対し、監視価格は弱った瞬間の人を高くする方向に働きます。連邦議会のギャレゴ上院議員はXでこう書きました。「JetBlueは、葬式に行かなければならないと知っているから数百ドル値上げしたと、公然と認めているのか? 悲しみにサージプライシング(急騰価格)があってはならない」

立法も動いています。4月にはメリーランド州が個人データに基づく価格設定を規制する全米初の本格的な州法を成立させ、コネチカット州が続き、2026年だけで24以上の州で40本を超える関連法案が提出されているといいます。中でも象徴的なのが、ニューヨーク州ですでに施行されている開示ルールです。個人データを使って価格を決めた場合、企業は価格の横にこう表示しなければなりません。

「この価格はアルゴリズムがあなたの個人データを使って設定しました」

禁止ではなく、まず「見える化」から。アメリカは今、その値札を見ても人が買うのか、という壮大な社会実験の入口に立っています。

◆■「混む日は高い」の次は、「あなたなら高い」

ぼくはシアトルのテック企業でPM(プロダクトマネージャー)として働いています。ボタンの色を変えるか、表示する順番を変えるか、文言を1文字変えるか──そんなA/Bテストは日常業務のひとつです。だからこそ思うのですが、画面上の小さな実験と、人の足元を見て値段を変えることの間に、技術的な壁はほとんどありません。あるのは倫理と開示の壁だけです。AIで「できること」が爆発的に増えた今、サービスの価値を決めるのは技術ではなく、「どこで線を引き、それをどう開示するか」なのだと思います。問われているのは「やれるか」ではなく、「やれるけど、やらない」を決められるかなのです。

そして日本でも、序章はすでに始まっています。テーマパークの入場料は日によって変わるようになり、ホテルや航空券の変動価格は当たり前、プロスポーツのチケットも需要で動く時代です。ただし、ここまでは「混む日は高い」という需要ベースの話。同じ日に買う人には、まだ同じルールが適用されています。

アメリカの騒動が突きつけているのは、その次のフェーズです。「混む日は高い」を受け入れた社会が、「あなたは急いでいるから高い」をどこで拒めるのか。需要で変わる価格と、あなたで変わる価格。画面の中では、その2つはほとんど見分けがつきません。

考えてみれば、私たちはずっと、値札そのものを信じて買い物をしてきました。値札とは「全員に共通の約束」だったのです。同じ棚の前に立つ2人が、同じパンに同じ値段を払う。だから価格交渉もいらないし、「自分だけ高く買わされたのでは」と疑わなくて済む。定価とは、社会の信頼を支えるインフラでした。

問題は、価格が動くことではありません。なぜその値段なのかが、私たちに見えないことです。次にスマホで見るその価格は、本当に「みんなの値段」でしょうか。それとも、あなたの足元を見た「あなたの値段」でしょうか。そう疑い始めた私たちは、これからも値札を信じられるでしょうか。

【福原たまねぎ】
シアトル在住。外資系IT米国本社のシニアPM。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後にベンチャー企業を経て2016年に外資系IT企業の日本支社に入社。2022年にアメリカ本社に転籍し現職。noteでは仕事術やキャリア論など記事を多数発表。初著書『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)が発売中。X:@fukutamanegi
配信元: 日刊SPA!

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