顔の見える関係が、地域を支える
薬局で住民と向き合うなかで、飯塚さんは一つの課題を感じるようになりました。それは、一つの専門職だけでは支えきれないケースが多いことです。
「この地域は、本当に医療も介護も福祉も資源が少なく、多職種間で情報を共有しながら支えていくことが大切だと考えています。資源がないなら、あるもので工夫するしかない。だからこそ、職種同士が密につながることが大事なんです」
そんな想いから、飯塚さんが2022年7月に立ち上げたのが「ならは多職種連携の会」です。きっかけは、日頃から交流のあったケアマネジャーや生活支援コーディネーターとの何気ない会話でした。
「3人でご飯を食べている時に、『こんなことやりたいんだよね』って話したら、『いいじゃん、やろうよ!』って言ってくれて。そこから少しずつ広がっていったんです」
当初は限られたメンバーによる小さな集まりでした。しかし口コミで参加者が増え、現在ではケアマネジャーや訪問看護師、リハビリ職、管理栄養士、行政職員なども加わり、さまざまな専門職が参加するネットワークへと発展しています。会では、それぞれの職種がどのような役割を担っているのかを学び合い、地域で起きている課題について意見を交わしています。
飯塚さんが大切にしているのは、まずお互いを知り、顔の見える関係をつくることです。
「医療従事者同士であっても、互いの仕事内容を詳しく理解しているとは限りません。在宅医療といっても、『薬剤師がどんなことをしているの?』という声を耳にすることがあります。だからこそ、まずはお互いの役割を知ることが大切だと思うんです」
職種の垣根を越えて気軽に相談できる関係が生まれたことで、住民の困りごとにもよりスムーズに対応できるようになったと言います。
そのつながりの輪は地域の専門職だけにとどまりません。近年は医療や福祉を学ぶ学生たちも加わり、楢葉町での学びを通して地域医療の魅力に触れる機会が生まれています。
地域医療の面白さを、次の世代へ
飯塚さんが学生の受け入れに力を入れ始めたのは、薬局の人材確保がきっかけでした。
どうすれば若い世代に地域医療の魅力を知ってもらえるだろうか。そう考えていた頃、ある大学関係者とのつながりから思わぬ話が舞い込みます。当時、その大学の薬学部では地域医療や多職種連携を実践的に学べる場が限られていました。そこで飯塚さんが楢葉町での取り組みを紹介したところ、「ぜひ学生を実習に行かせたい」という声が上がったのです。
こうして始まった学生の受け入れは、今では薬学部だけでなく医学部にも広がっています。
学生たちは薬局業務だけでなく、在宅訪問への同行や地域住民との交流、介護や福祉の現場の見学などを通して、地域医療の現場を体験します。取材当日も、実習中の学生たちが楢葉町で学んでいました。実習を通してどんなことを感じているのでしょう。
「都会ではなかなか経験できないような人とのつながりがここにはありました。地域の人たちがお互いを気にかけ、支え合っている姿を見て、本当にいい町だなと感じています」
「想像以上の毎日でした。在宅訪問に同行することはあっても、介護や福祉、行政との関わりまで見る機会はほとんどありませんでした。ここでは、患者さんに対し、一人の地域住民として接している飯塚さんの姿を見ることができました。地域のさまざまな人や職種とのつながりのなかで支えられていることを知り、地域医療についての見方が大きく変わりました」

取材時、実習に来ていた学生たち

