◆悪用シーンを想定した検証結果は?

想像以上に、あらゆるシーンで悪用が可能な印象を受けた。例えば更衣室や風俗店での盗撮もお手のものだろう。飲食店では気づかれずに隣客の会話を録音できるし、社内の書類や機密情報が勝手に撮影される恐れもある。
実はスマートグラスのほとんどの機種は、撮影する際に周囲にわかるよう、レンズに埋め込まれたLEDランプが点灯する仕様になっている。だが、このスマートグラスでは、屋外の明るい環境では目立たなかった。よほど注意していなければ気づかないだろうし、そもそも他人のメガネをじっくりと確認する者はいないだろう。
前出のITライターはこう警鐘を鳴らす。
「欧米や中国では、撮影時に点灯する機能を無効化するツールが出回っているんです。プログラムを改造するマニュアルや、LED自体を隠す遮蔽シールが販売されています。中国では、2000円でランプをドリルで削り取る業者まで存在するそうです。日本でもスマートグラスが普及すれば、同時にこうした手法も広まってくるでしょうね」
◆市民が互いに監視し合う世界が到来

中国では、試験のカンニングが社会問題となっている。問題を撮影し、AIに解答を教えてもらうのだ。あまりの不正の多さに、メガネをかけた受験生は全員、厳しくチェックされるようになった。
映画やライブの無断撮影など、ほかにもさまざまな悪用が想定されるが、日本にはその使用を包括的に規制するルールがまだ存在しない。
日本社会は、スマートグラスとどう向き合えばいいのか。国立情報学研究所教授の佐藤一郎氏は「技術だけで悪用を完全に防ぐことは難しい」としたうえで、段階的な対策を提唱する。
「まずはユーザーも含め、自主的な取り組みを促すことが現実的です。まずメーカーが、使うべきでないシーンや、映っている人のプライバシーへの配慮についてガイドラインを示す。それで不十分であれば、強制力のある法規制へと移行するしかありません。学校なら教育関係、医療現場なら医療関係の業法でそれぞれ縛るという、業種ごとに対応する方法もあるでしょう」
だが、懸念すべきは悪用だけではない。「常時監視社会」が訪れる可能性もあるという。
「スマートグラスが普及すれば、監視の主体が、これまでの国家や企業から個人へと移行する恐れがあります。人間関係というのは、相手がある程度忘れてくれることを前提に成立しています。しかし、誰もが着用するようになれば、視線の先がすべて記録されるので、その前提が崩れてしまう。人間は環境に慣れていく生き物なので、やがて市民同士が互いに監視し合うことが当たり前の世の中になるかもしれません……」
そんなグロテスクな世界にならないよう、メーカーによる自主規制やルールづくりは急務だ。

