「シート倒すな!」突然ブチ切れた20代男性客に機内は騒然。「普通っぽい見た目だったのに…」/機内トラブルは世界で3年2.7倍。じつは“倒しても後ろが狭くならない”座席も登場していた

「シート倒すな!」突然ブチ切れた20代男性客に機内は騒然。「普通っぽい見た目だったのに…」/機内トラブルは世界で3年2.7倍。じつは“倒しても後ろが狭くならない”座席も登場していた

◆■リクライニングは「マナー違反」か「機能」か

米村さんが目撃したBさんの振る舞いは論外として、そもそもリクライニング自体は倒していいものなのか。この点、じつは航空会社自身がわかりやすい形で答えを出しています。

たとえば全日本空輸(ANA)は、国際線B777-300ERやB787-8のエコノミークラスの一部で、背もたれが後ろに倒れず、代わりに座面が前方にスライドする「Fixed Back Shell(フィックスト・バック・シェル)」という仕様を導入しています。倒しても後ろの席のスペースを一切奪わない設計で、公式サイトでも「シートを倒さずリクライニングできるFixed Back Shellスタイルを採用。後部座席を気にすることなくリクライニングが可能に」と説明されています(出典:ANA公式サイト エコノミークラス シート・座席一覧(国際線))。

言い換えれば、航空会社側は「後ろの人に気を遣わずに倒せる」ことをわざわざセールスポイントとして掲げているわけです。通常のリクライニングシートについても、その裏には「本来、倒すことに気兼ねなど要らないはずのもの」という前提があるとみて、まず間違いありません。

鉄道会社の立場も基本的には同じです。JR北海道の公式FAQは「急に倒すと、後ろのお客様が驚いてしまう場合や、深く倒すと圧迫感から、不快に感じるお客様がいらっしゃいます。後ろの方へ確認していただくようご協力をお願いします」(出典:JR北海道 よくあるご質問)と、あくまで“配慮のお願い”のレベル。「倒すな」というルールは、どこにも存在しません。

離着陸時など「安全阻害行為等の禁止事項」で明確にNGとされているタイミングを除けば、水平飛行中に倒すこと自体は乗客に認められた使い方であり、原則としてルール違反ではないのです。“倒すな”と後ろから命令する権利は、そもそも他の乗客にはないわけです。

◆■世界でも、日本でも起きている機内“沸騰”

とはいえ、感情の問題は別。冒頭で触れたIATAの数字をもう少し細かく見てみると――

・2021年:835便に1件
・2022年:568便に1件(2021年比 約1.5倍)
・2023年:355便に1件(2021年比 約2.4倍)
・2024年:307便に1件(2021年比 約2.7倍)

と、機内迷惑行為の発生率はきれいな右肩上がりで悪化しています(出典:IATA Unruly Passengers)。世界140社超の航空会社から集まった9万件を超える報告に基づく数字で、内訳の上位は「乗務員の指示に従わない」「機内や洗面所での喫煙・電子たばこ」「暴言」「シートベルト着用指示の無視」「持参アルコールの摂取」など。

そして、日本の空でも他人事ではありません。2020年にはコロナ禍の国内線機内で、マスク着用を求められた乗客が客室乗務員に暴行を加え、機を新潟空港に緊急着陸させる事件が発生。この乗客は威力業務妨害や傷害などの罪に問われ、大阪地裁は2022年12月に懲役2年執行猶予4年の有罪判決、翌2023年10月には大阪高裁も控訴を棄却しています。「客室乗務員に手を出す」「機を緊急着陸させるほど騒ぐ」というレベルまでいけば、日本の裁判所はきちんと刑事責任を認める、ということです。

もちろん、Bさんの「シート倒すな!」は言葉と足だけで済み、事件化はしていません。ただ、あと一歩踏み込めば――たとえば米村さんに直接手を出す、乗務員の制止に従わずさらに暴れる――そうなれば同じ航空法や刑法の暴行罪、業務妨害罪の射程内に一気に入ってきます。「たかがシート倒された」で押し切るには、ずいぶん重たいカードがすぐ隣に積まれている場面だった、ということでもあります。

◆■結局、大人ができること

米村さんが最後に語っていた「私に注意できる勇気があればよかった」という言葉は、正直な感想として胸に残ります。ただ、乗務員が一度注意しても収まらないほどキレている相手に、一般の乗客がひとりで立ち向かうのは、現実にはかなり難しい。そんなときは無理をせず、乗務員をもう一度呼ぶ、離れた席への移動を相談する――といった“乗務員を通す”対応が、いちばん安全で確実なようです。

見た目は普通、でも中身は常軌を逸していた若い日本人男性。10時間以上のフライトを、シートも倒さず、恨みを募らせながら過ごした彼が、いま何を思っているのかはわかりません。ただ、リクライニングというたった一つのボタンをめぐって、ここまで人は沸騰できるのだ――ということだけは、覚えておいて損はなさそうです。

<再構成/日刊SPA!編集部>

【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。
配信元: 日刊SPA!

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