「今年は来なくていいよ」76歳実家の母がポツリ。毎年約12万円・新幹線の争奪戦も“親孝行”のはずが…〈お盆の帰省〉が消えた夏

「今年は来なくていいよ」76歳実家の母がポツリ。毎年約12万円・新幹線の争奪戦も“親孝行”のはずが…〈お盆の帰省〉が消えた夏

毎年お盆に実家へ帰省する――それは、日本の夏の風物詩ともいえる光景です。帰省ラッシュの時期には新幹線の指定席が争奪戦となり、乗車日の1ヵ月前に始まる発売日を狙って予約する人も少なくありません。しかし、「実家はいつでも迎えてくれる」「顔を見せれば親は喜んでくれる」――そんな子世帯の"当たり前"が、ある日突然覆されることもあるのです。

毎年恒例、実家への帰省…お盆の1ヵ月前から準備をしていたが…

「まさか、そんなに負担になっているとは思っていませんでした」

東京都内に住む会社員の麻衣子さん(仮名・48歳)は、毎年お盆休みの1ヵ月前になると、新幹線の指定席を確保するための「チケット争奪戦」に追われていました。夫と長男、長女の家族4人で、両親が暮らす仙台の実家へ帰省するのが毎年の恒例行事だったからです。

帰省期間は5日間ほど。交通費や手土産代だけで約12万円の出費でした。「それでも、母は自分や孫に会えるのを楽しみにしている。帰省は親孝行でもあるから」――。

ところが、昨年7月のこと。実家の母(76歳)に電話をした際、思いがけない言葉をかけられます。

「今年のお盆だけど……来なくていいわよ」

「え? もしかして体調悪いの?」

「そうじゃないんだけどね。もう暑い時期にお客さんを迎えるのが、しんどくなっちゃって……」

両親は、いつも満面の笑みで迎えてくれていました。朝早くから台所に立ち、子どもたちの好物を並べる。「今年はこの桃がおいしいのよ」と果物を用意してくれたり、「せっかくだから」と近所の寿司店へ連れて行ってくれたり。

「布団を干して、部屋を掃除して、買い出しに行って……。みんなが帰ったあとは、お父さんも私も1週間くらいぐったりしちゃうの。昔は何ともなかったんだけどね」

麻衣子さんはこれまで「父も母も好きでやってくれている」と思っていました。しかし、70代後半に差し掛かった両親にとって、真夏に4人分を出迎えることは、想像以上の重労働だったのです。

「歓迎されている」という思い込みが隠すもの

良かれと思ってしていた帰省が、実は親の心身と家計を圧迫していた――。その背景には、まず「親の体力的な限界」があります。

厚生労働省の「介護給付費等実態統計月報(2025年)」によると、要支援・要介護者が目に見えて増えてくるのは70代後半から。75~79歳では11.8%、80~84歳では26.7%、85歳以上は60.2%に上ります。介護までいかなくても、70代後半ぐらいになれば、日常の家事だけで手一杯になることも少なくありません。

そして「経済的な負担」もあります。多くのシニア世代は、公的年金を収入源として暮らしています。総務省「家計調査報告 2025年」を見ると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の可処分所得は月約22.2万円、消費支出は月約26.4万円。平均では毎月不足が生じている計算です。

それでも、子どもや孫が帰省してくれば、ご馳走を奮発したり、お土産を用意したり、お小遣いを渡したりしてしまうのが、親心です。

一方で、孫が大きくなるにつれ、部活や受験、友人関係などでスケジュールを合わせること自体が難しくなっていきます。寂しい部分があっても、これは「準備や金銭的な負担が減る」という、お互いにとってウィンウィンの転換期にもなります。麻衣子さんにも、ちょうどそのタイミングが訪れたのです。

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