「一生遊んで暮らせる!」と早期退職も…資産2億円・57歳元部長のFIRE生活2年、〈妻の異変〉で大転落。元部下に「バイトでいいから働かせて」と泣きつくも、届いた“やんわりお断りメール”に自尊心ズタボロ

「一生遊んで暮らせる!」と早期退職も…資産2億円・57歳元部長のFIRE生活2年、〈妻の異変〉で大転落。元部下に「バイトでいいから働かせて」と泣きつくも、届いた“やんわりお断りメール”に自尊心ズタボロ

FIREをきっかけに「保険」を解約したワケ

FIREから2年が経つころ、異変が起きました。妻が早朝に突然倒れ、救急搬送されたのです。診断は脳出血でした。血圧が常に190と高い状態のまま、前日に友達と温泉に行ったのがきっかけかもしれません。

FIRE界隈には、ある種の「定説」があります。「生命保険は金融機関が儲けるための商品に過ぎない」「高額療養費制度があれば医療費は怖くない」「その保険料を投資に回せば資産は加速度的に増える」そんな論理です。「FIREしたいなら生命保険は無駄遣い。いますぐやめろ」という意味でしょう。Nさんもまた、FIRE系インフルエンサーの発信に影響を受け、10年前から家族全員の医療保険を解約していました。月々数千円の医療保険を切り捨て、その分を運用資金に回すことが合理的だと確信していたのです。

「医療保険に入るなんて情弱だろ」。そんな風に、保険に入る同僚をバカにしたこともあります。ところが、その“常識”が音を立てて崩れていきました。

高額療養費制度があるのに「大丈夫じゃない」

脳出血の治療は、急性期の入院だけで終わりません。手術、ICU管理、その後のリハビリ入院と、治療は半年にわたりました。そのようななかでもNさんは、「高額療養費制度があるから、自己負担は月に数万円で上限が来るはず、しかも4ヵ月目からはさらに負担が軽くなる」と高を括っていたのです。

しかし、この制度には見落としがちなポイントがいくつも存在します。

まず、保険適用外の費用は制度の対象外だということ。脳出血の後遺症で排泄のコントロールが難しくなった妻は、尿カテーテルを装着し、大部屋での入院生活に強いストレスを抱えていました。おむつ交換のたびに周囲への臭いを気にし、恥ずかしさに耐えられない気持ちになったようです。可哀想に思ったNさんは個室への移動を決断しました。

その差額ベッド代だけで1日あたり約1万円、1ヵ月で30万円を超えます。これは高額療養費制度の対象外であり、全額自己負担です。

限度額適用認定証を事前に取得して病院に提示すれば、窓口での支払いは自己負担限度額までで済みます。しかしそれはあくまで「保険適用内の診療費」に限った話。差額ベッド代や食事代などは含まれず、パジャマやタオルなどの身の回り品は外部の業者から請求書が届きます。

退院後に必要となる介護用品や自宅改修費用といった保険外費用は、限度額適用認定証があってもカバーされません。リハビリ病院への転院後も、保険外費用の負担はリセットされることなく積み上がり続けます。また、退院後のリハビリを行うデイケアの施設や介護ヘルパーの事業所からも請求が……。

毎月届く複数の請求書を手にしたNさんは、ふとあのインフルエンサーの動画を思い出しました。「保険はムダ」「高額療養費制度があれば怖くない」と自信満々に語っていたあの男の顔。「あいつ、自分も家族も病気になった経験がないんだな」と、Nさんは思いました。「なんであんな若造の講釈を信じたのか」。

Nさんは医療費のリアルを理解していなかったことに気づきます。Nさん夫妻の場合、急性期から回復期までの数ヵ月間だけで、病院からの請求だけで300万円を超える支出が発生しました。月々数千円の医療保険を「無駄」と切り捨てた判断が、これほどの代償を生むとは想像すらしていませんでした。

2億円の資産があるとはいえ、妻にはこれからもお金がかかっていきます。FIREとは元本を切り崩しながら生活するという考え方です。切り崩しのスピードが早まることには、いいようのない不安を覚えるように……。

「給与ゼロ=所得ゼロ=税金ゼロ」ではない

予想外の医療費を前に、Nさんは確定申告で少しでも現金を手元に戻そうと考えました。「退職して給与収入はゼロになった。2年目からは住民税も国民健康保険料も大幅に下がるはずだ。確定申告をすれば、源泉徴収された税金の一部も戻ってくるかもしれない」。そう判断し、運用益の損益通算も兼ねて確定申告を行ったのです。

しかしここに、FIRE生活者が陥りやすい根本的な誤解がありました。「給与ゼロ」は「所得ゼロ」ではないという点です。

日本の税制では、株式の配当金や売却益も「所得」として扱われます。特定口座(源泉徴収あり)であれば、確定申告をしない限り、これらは住民税や国民健康保険料の算定に原則として影響しません。ところが確定申告を行った瞬間、その運用益や配当収入が税務署・役所に「所得」として届け出られることになります。

結果としてなにが起きたか。住民税は前年の運用益をベースに算定され、国民健康保険料も賦課限度額(年間約100万円)に固定されたまま推移しました。「2年目こそ税負担が軽くなる」と信じて待ち続けたNさんにとって、これは致命的な誤算でした。

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