バラエティ番組では「破顔一笑」という言葉がよく似合う。だが、ひとたび芝居の世界に入れば、その笑顔の奥から“狂気”が顔をのぞかせる。Netflixドラマ『サンクチュアリ -聖域-』で世界的な注目を集め、強面の悪役から、不器用な優しさを抱えた男まで演じ分ける唯一無二の存在感は、どこから生まれたのか──

◆ハマる役が来たら、絶対にブチ抜く
世界的大ヒットとなったNetflixドラマ(※1)『サンクチュアリ -聖域-』で、無名の男は一躍“時の人”となった。俳優・一ノ瀬ワタル。強面なのに、どこか優しい。危うそうなのに、人懐っこい。唯一無二の存在感で、いまドラマや映画に欠かせない俳優の一人だ。そんな男が、満を持して現在公開中の(※2)『四月の余白』で劇場映画初主演を飾った。誰もが羨むようなサクセスストーリー。しかし、その裏側には、プロ格闘家として死を意識しながら修行に取り組んだ過酷な日々があった。──本作では不良少年と体当たりでぶつかる元半グレの更生施設長・西健吾を演じました。少年が非行に走る環境というのは、理解できますか?
一ノ瀬:実はこう見えて、まったくグレたことがなくて。
──意外に、というか。
一ノ瀬:いや~そうなんですよ。こうして悪役俳優でずっとやってきてるけど、自分は小学生のときから警察署の少年柔道部に通っていたし、キックボクサーになるために18歳で上京して(※3)内弟子生活に入っていて、そこも厳しかったので。
──一ノ瀬さんが演じる西からは、怖さだけでなく、憧れていたことを公言されている映画(※4)『学校』の西田敏行さんのような、優しさや哀愁も感じましたが、どう役作りをされましたか。
一ノ瀬:うわ、うれしいです! 自分は役作りで曲の力を借りることが多くて。今回もプレイリストの最初が『学校』の「幸せっていうのは」って曲で、めちゃくちゃ意識してたんです。『学校』や『3年B組金八先生』のような作品も改めて観て。主軸に置いたのは、映画とはいえ「あの子たちを愛す。絶対に見捨てない。絶対に救ってあげる。あの子たちは俺が幸せにする」という気持ち。それが一番大事で、それさえしっかり持っていればと思いました。

一ノ瀬:俺、(※5)うさぎを8羽飼っていて、その子たちのためにいま生きているんです。本当に「命を懸けられる」くらいの気持ちがあるので、その気持ちに生徒たちを重ねてみたら、すごく自然に入り込むことができました。
◆選択肢があったら、よりキツいほうを選ぶ
──一ノ瀬さん自身はどんな思春期を過ごしてきましたか?一ノ瀬:18歳から25歳まで、ほぼ監禁生活でしたからね。みんなが青春を謳歌しているときに、世に出ていない。箱入り息子というか。寂しかったし、精神的にもしんどかったですね。まあ、『サンクチュアリ』の期間もかなりキツかったですけど。
──過酷な環境に身を置くことが多いですよね。
一ノ瀬:5歳で父が亡くなり、母が仕事に出たので、ずっとばあちゃんといたんです。ばあちゃんは口癖のように「若いうちの苦労は買ってでもしろ」と言っていて、自分のなかにはその言葉がずっとあるんです。だから、AかBか選択肢があったら、よりキツいほうを選んでしまう。それはある意味、呪いなのかもしれないけど、そのおかげでいまがあるので感謝しています。

一ノ瀬:いやいや、そんなことないですよ。逃亡してます(笑)。「内弟子、無理!」となって、ジムの近くにはいたんですが、2か月くらい脱走してたかな。
──内弟子って特殊ですよね。
一ノ瀬:そうなんですよ。テレビもないですし、娯楽がなくて、しゃべる人もいないので。
──映画で描かれたような“道を踏み外す人”とは違った形のアウトローな生き方ですよね。
一ノ瀬:ただ、自分がいた道場の(※6)安里支部長のところには、実際に不良少年たちが預けられてたんです。空手の練習を通して、人の痛みを知り、礼儀を学び、面白いくらいにみんな更生していく。映画に登場する更生施設にもつながるなと思いました。

