京都・西陣エリア。かつて織物職人たちの活気に満ちていたこの歴史ある街の路地裏に、今、甘い香りで人々を魅了する一軒のパティスリーがあります。
最寄りの駅からは少し距離がありますが、京都バスに揺られてのんびりとお散歩がてら向かうのも楽しい、そんな場所にあるのが「SHIKI-織-(しき)」。
店舗には看板がなく、まるで街並みにそっと潜む隠れ家のような佇まい。しかし、一歩足を踏み入れると、外観からは想像もつかないほどシックで洗練された大人の空間が広がっています。ショーケースに目を向ければ、そこには街のケーキ屋さんという枠を遥かに超えた、極めて緻密で美しいパティスリーの世界が待っていました。

名店で培ったショコラの技術と、即興で仕立てるショーケース
「SHIKI-織-(しき)」は、オーナーシェフの奥野光さんが、自身の生家である京町家を美しくリノベーションして2022年に開業したお店です。

奥野シェフは、関西の名門「プチ・プランス」でチーフ・パティシエを歴任した後、五感のビーントゥバーブランド「Cacaotier Gokan」の立ち上げに参画。3年間にわたり製造・開発の最前線でカカオの世界を突き詰めてきました。

その知識と技術をベースにスタートした「SHIKI-織-」のショーケースには、つややかで宝石のようなボンボンショコラが並びます。

一方で、生ケーキの充実ぶりにも目を見張るものがあります。開業当初は5種類ほどからスタートしたというケーキは、今や12〜15種類へとラインアップを拡大。奥野シェフが毎朝自ら市場へ赴き、「これだ」と思った新鮮なフルーツを仕入れ、店に戻ってから即興で仕立てていくことも多く、訪れるたびに新しい味わいに出会える楽しさがあります。

近年、スイーツ界でも「自分らしさ」を大切にするスタイルのお店が増える中、40歳を迎える奥野シェフの姿勢は、どこまでも硬派でストイック。これまで培ってきた知識と経験という『ベース』があるからこそ、自分の限界を決めずに、やったことのないものづくりへ果敢に飛び込んでいけるのだろうと感じます。
その職人魂の象徴とも言えるショーケースは、シェフの引き出しの多さと、モノづくりへの果てしない情熱を物語っているようです。
夏と冬で構成を変える自信作「リッシュショコラ」と、緻密な断面美
数ある生ケーキの中でも、シェフが「一番の自信作」と胸を張るのが「リッシュショコラ」。

オランダのビーントゥバーブランド「ハインデ&ヴェレ社」のエクアドル産カカオのショコラを使用し、その華やかな個性を最大限に引き出しています。夏は重くなりすぎないよう3層仕立てに、冬は濃厚なガナッシュの厚みを増した2層仕立てにするなど、季節によって構造を細かく変えているこだわりようです。

また、季節の移ろいを感じられる「セゾンフロマージュ」は、土台のダコワーズから始まり、サクサクのフィヤンティーヌ、カスタード、はちみつジュレ、ヨーグルトムース、クレームフロマージュまで、気が遠くなるほど多くのパーツで緻密に組み立てられています。
「仕込みが大変では?」という問いに、「自分が作れれば問題ないので」とさらりと答えるシェフ。普段は「買ってくれた人のみが楽しめるように」と公にされることのない、息をのむほど美しいケーキの断面を、今回は特別に見せていただきました。

このクオリティのケーキを毎日12〜15種類も作り上げているのだから、驚きを隠せません。

ショコラに関しては、完全に奥野シェフが一人で手作りを貫いています。 毎年ラインアップを刷新しており、今年の「2026年ショコラコレクション」は、昨年シェフが没頭したというプラリネ研究の成果を生かしたクリエイションと、京都の厳選素材を生かしたアソートボックスが主役。

1年をかけて常に新しい素材と製法を研究し続け、その答えを翌年のコレクションとして発表していくというマニアックなまでの探究心。次は「スパイス」を取り入れる構想もあるとのことで、早くも期待が膨らみます。