引っ越し先の慣習に従い、半ば仕方なく自治会へ加入した相良美緒さん(仮名)。やがて自宅アパートの目の前がゴミ収集場所となり、カラスによってゴミが散乱する事態に見舞われた。ところが、問題解決のために立ち上がったのは、当初「付き合いづらそう」と感じていた自治会の老人たちだった。ゴミ収集場所をめぐる騒動を通して見えてきた、地域社会を動かす意外な力とは——。
◆アパートの目の前がゴミ収集場所に…

相良美緒さん(仮名)が、夫と子どもと共に現在のアパートへ引っ越してきた際、避けて通れなかったのが自治会や子ども会への加入だった。積極的に活動へ参加したいわけではなかったが、子どもを持つ家庭は入るのが当然という空気があり、断るという選択肢はほとんどなかった。
「小学生の子どもを持つ親が自治会に入るのは、30年以上続く地域の慣習です。新参者には馴染みにくいことでも、その土地で暮らしてきた人たちがいる限り、抗うことはできないんです」
相良さんの夫も乗り気でなかったが、腹をくくって集会を訪れると、自治会長からある相談をされた。
「ごみ収集場所の変更を市から通達されたそうで……。アパートの前をゴミ収集場所にさせてほしいと言われたんです」
とはいえ、ゴミ収集場所は玄関を出てほぼ目の前。正直に言えば、気持ちのよい話ではない。自治会側は、時間厳守の見回りとブルー網による散乱防止を約束してくれたので、最悪の場合は変えてもらえばいいかと思い、相良さんは了承したのだった。
◆カラスという想定外の強敵が出現
最初の1か月は、むしろ快適だった。ゴミ捨てが玄関前で済む。それをラッキーとさえ思っていたという。だが、慣れというものは人を油断させる。ある朝、相良さんはゴミ収集場所の惨状に言葉を失った。
「生ゴミ、プラスチック、紙、袋。あらゆるものが散乱し、風が吹くたびにさらに広がっていく。匂いも当然ひどい。犯人は、カラスです」
ブルーの網には重しがついており、簡単にはめくれないはずだった。しかしゴミの量が多い日は網が全体を覆いきれず、その隙間をカラスは見逃さなかった。生ごみが特に多い袋を器用に引っ張り出し、嘴で破いて中身をぶちまける。賢い生き物とは、つくづく恐ろしい。
要するに、アパート前は「カラスの餌場」になってしまったのだ。
これが予想外の事態だったのは、相良さんだけではない。自治会の面々も頭を抱えた。
なにより地域の小学生の子どもたちがカラスを怖がっていた。そこで相良さんは、こう言った。
「カラス対策ができず、このままの状態が続くようなら、ゴミ収集場所を変えてもらうしかありません。厳しそうなら私は引っ越しも視野に入れています」

