◆「それって、もしかしてAIに答えさせたんですか?」
開始から10分ほどが経過したころ、クライアントの一人が手を挙げました。「すみません、解説文の最後のほうに”開院の手引き”とか”良い人材の集め方”みたいなタグが散見されるんですが、もしかして自分でやってないのでは。AIに答えさせたんですか?」
さらに施設名の欄には実在しない架空の名称が当てはめられ、文中には「ファクトチェック済み」という文言まで随所に散見される始末。AIが生成したテンプレートをほぼ素のまま提出したことは、もはや一目瞭然の状態でした。
見かねた上司がすぐさまフォローに入り、「資料の差し替えができておりませんでした。骨子としては間違っていませんので、改めて正規の資料をお送りします」と場を取り繕ってくれたといいます。それでも「なんのためのコンサルなんですか」というクライアントの一言が、山本さんの胸に深く刺さったとのことです。
◆AI全盛だからこそ大切な”急がば回れ”のプロセス
その一件以来、山本さんは糸が切れたようにしばらく休職したといいます。今回の失敗の背景には、心身の疲弊による判断力の低下があったことはたしかです。しかし同時に、AIの出力を”完成品”として扱い、確認作業を省いてしまったことも見逃せません。
AIは膨大な情報を瞬時に整理してくれる強力なツールですが、その性質上、事実と異なる情報を自信満々に提示したり、文脈にそぐわない表現が紛れ込んだりすることが少なくありません。今回の”タグ”や「ファクトチェック済み」という記載は、まさにその典型例です。最終的な確認と責任は、あくまで人間の側に委ねられているのです。
「今思えば、あのとき誰かに『少し休め』と言ってほしかったのかもしれません。AIは操作を誤ると、とんでもないことになることを痛感しました」
と、山本さんは静かに語ってくれました。IT革命が進化する中、”急がば回れ”という言葉の大切さを身に染みて感じたようです。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

