みなさんは、昨今教育界隈で話題に上る「体験格差」という言葉をしっていますか?
子どもたちがどのような体験・アクティビティに触れられたかで、成人前後の人生経験値が大きく異なってしまうことを指します。
教育や親の資金力を通じて格差をさらに倍増させてしまうとして、今井悠介氏による『体験格差』(講談社)など、様々な書籍、論文などで取り上げられています。
体験格差が生じるところといえば、「海外旅行に行けるかどうか」「高価なサマーキャンプに参加できるか」「珍しい習い事をさせてもらえるか」といった、多額の費用がかかる特別なイベントの有無を想像されるでしょう。
確かに、湯水のように教育費を使える富裕層の家庭であれば、子どもに提供できる体験の選択肢は無数にあります。そのため、「体験格差とは、親の資金力の差である」と諦めてしまう親御さんも少なくありません。
しかし、実態は「必ずしも貧乏人では勝ち目がない」わけでもなさそうです。
私はこれまで100人以上の東大生を取材し、彼らの幼少期の過ごし方について調査してきました。
私自身も世帯年収300万円台という、都内では明らかに貧困に分類される家庭から東大へと進学しています。
そうした取材の結果、「親の見識と工夫の差」によって、体験格差を少しでも埋めることはできるのかもしれない可能性が見えてきました。
もちろん、お金を使ったゴージャスな体験が「できない」不自由はあるでしょう。しかし、不平を漏らせば金銀財宝が湧いてくるわけがないですし、子どもの成長は止められない。
無いものねだりではなくて、「ありもので、どう間に合わせるか」を考えるのも、立派な工夫でしょう。
そして、高いお金を払わなくても、日常風景にこそ、子どもの知的好奇心を強烈に刺激し、思考力を鍛える「生の体験」が溢れています。
今回は、お金を一切かけずに、日常生活の中で体験格差を埋めるための具体的なアプローチについてお伝えします。

◆スーパーマーケットは「生きた経済と地理」の教科書
例えば、みなさんが普段何気なく利用している「スーパーマーケット」。ここをただ「ごはんの材料を買い出す場所」として終わらせてしまうのは、あまりにももったいない。親の工夫次第で、スーパーは最高の知育空間へと変貌します。
まずは、子どもと一緒に野菜や魚のコーナーに行き、「産地」を見比べてみてください。
そして、「今日のトマトは熊本県産だけど、冬になったらどこから来るんだろう?」「どうしてこのお魚は遠くの北海道から運ばれてきているのに、こっちのお魚よりも安いんだろう?」と問いかけてみるのです。
さらに踏み込むなら、近所の安い大衆向けスーパーと、駅前にあるちょっと高級なスーパーをはしごして、「品ぞろえや値段の差異」を一緒に観察するのも面白いでしょう。
「なぜ同じ牛乳なのに値段が倍も違うのか」「高級スーパーにはなぜ見慣れないスパイスがたくさん並んでいるのか」「それぞれのお店には、どんなお客さんが来ているのか」考える材料は無限にあります。
もちろん、親御さんの側に知識がない場合もあるでしょう。そういった際には、親子で本を開いて勉強してみるのもいいかもしれません。
実際に、東京大学経済学部に現役推薦合格した下村英理さんの『スーパーって観光地やねん』(青月社)では、かわいらしいイラストに起こされた様々な特産品・名産品が、豆知識やコラム付きで紹介されています。
「なぜ?」を子どもと一緒に考えることで、子どもは単なる買い物を通じて、日本の地理や物流の仕組み、さらには需要と供給という経済の基本ルールまでを肌で学ぶことができます。
机に向かってドリルを解かせるよりも、ずっと深く生きた知識として定着するでしょう。
◆街歩きで育つ「観察眼」と「論理的思考」
遠くの大自然や海外の世界遺産に行かなくても、近所の街歩きだけで十分な体験学習は可能です。例えば、家の近所の「街道の並木」と「公園の植生」の違いに気づかせたことはありますか?
街道沿いには排気ガスや乾燥に強い特定の樹木が植えられていることが多く、一方で公園には四季を感じさせる多様な植物が配置されています。
これをただ「木が生えているね」で終わらせるか、「どうして道路の横と公園の中では、生えている木の種類が違うんだろう?」と問うかで、子どもが得られる経験値は天と地ほど変わります。
また、「街の地理」自体を取り上げてみるのもいいでしょう。「どうして、この街には坂が多いのに、隣町には少ないんだろう?」「どうして地下鉄の丸の内線は一度地下から地上に出てくるんだろう?」「どうして山手線には、階段を上った先にホームがある駅と、下った先にホームがある駅が混在しているんだろう?」など、私たちが何気なく暮らす「この街」自体にも、多くの学びが隠されています。
こういった内容が気になったのであれば、『自然のしくみがわかる地理学入門』(ベレ出版)を読んでみてもいいでしょう。
東京や大阪の都心部を中心に、様々な地理的疑問を解消してくれる一冊です。これはお子さん向けだと難しすぎるでしょうから、ぜひ保護者の皆様がかみ砕いて説明してあげてください。

