【専門家が伝授】証拠書類なき「口約束爆弾」を回避する2つのアプローチ
今回のケースはなんとか円満な着地に導けましたが、一歩間違えれば、買収した途端にキーパーソンが全員一斉退職するような大惨事になっていた案件です。このような「見えない爆弾」を踏まないために、M&Aを検討する経営者が絶対にやるべき対策は以下のとおりです。
1. 就業規則だけでなく「労働条件通知書・雇用契約書」の有無を必ず確認する
基本中の基本ですが、事前調査の段階で、就業規則の束だけを見て安心するのは絶対にNGです。「全従業員分の労働条件通知書または雇用契約書」が紙やデータで実在するかを必ずチェックしてください。これらが「ない」と言われた時点で、その会社には高確率で口約束のグレーな条件が隠れています。
2. 書面がない場合は「求人票」と「1日の実際の働き方」を洗い出す
もし書面がない会社を買収対象にする場合は、売り手側の経営者の「覚えている」という言葉を信じてはいけません。今回の佐藤前社長のように、経営者は不利になる過去の口約束を悪気なく忘れていたり、多くを語らなかったりするからです。
代わりに、以下の2つを客観的な証拠として提出させ、実態をあぶり出します。
- 採用当時の求人票や面接時のメモ・提示資料:ここに本当の提示条件が残っているケースが多いです
- 出勤から退勤までの「実際の働き方」:フレックスや直行直帰が常態化していないかを把握するために、勤怠ログやPCの稼働時間を確認します
【まとめ】労務の健全性こそ、M&Aのシナジーを最大化する土台
どれだけ財務やビジネスモデルが魅力的な企業であっても、そこで働く「人」が買収後に反発して離れてしまえば、M&Aは失敗に終わる可能性が極めて高くなります。
売り手企業が提出してくる就業規則や各種帳簿といった「きれいな証拠」の裏側には、前経営者がその場しのぎで重ねてきた「口約束」という見えない爆弾が眠っていることが本当によくあります。
「今度検討している買収案件、労務環境は本当に大丈夫だろうか」「契約書がない社員がいるけれど、どう統合を進めればいいか」と少しでも不安を感じられたなら、ぜひ一度、M&Aの現場で従業員と直接向き合ってきた経験を持つ社労士にご相談ください。リスクを事前に摘み取り、買い手も売り手も、そして従業員も全員が幸せになるM&Aを、ともに形にしていきましょう。
安達 弘貴
社会保険労務士法人AOBA
代表
