◆大金を払って”スーパーエリート消費者”を育てている
この現状を専門家はどう見るのか。脳科学や行動経済学の知見から人の消費心理を読み解いてきた臨床心理学博士の遠藤貴則氏は、本稿にある2家庭の課金を典型的な”本末転倒”だと指摘する。「経済学に『指標が目標になると、良い指標ではなくなる』というグッドハートの法則があります。要は、子供の健全な未来という真の目的を忘れ、いつの間にか『いくら課金したか』が目標になってしまっているということです」
課金が止まらない理由も、脳の仕組みで説明できるという。
「動機が希望ではなく、恐怖になっているんです。『この講習を受けたら伸びる』ではなく『受けなかったら取り残される』。人は恐怖に駆られると思考が単純化して、複雑に考えられなくなります。だから『みんながやっていることをやればいい』に流れます。しかも比較対象は、ママ友や塾、マンション内ヒエラルキー、SNS。専門性のない人たちの意見に振り回される”比較の暴走”です。これはもはや、子供のためと言いながら、自分の不安解消のためにお金を払っている状態ではないか」
その課金の先に育つのは、何者なのか。
「思春期前期の大事な時期に部屋に缶詰めで社会を知らず、受験用の”お勉強”ばかりでまともな金融教育もされていない子供は、将来、稼ぎ方を知らないまま使い方だけ覚えた”スーパーエリート消費者”になる可能性が高い。本来必要なのは、金融教育だと私は思いますが、金融教育は塾のように外注できません。教材は親の生き方そのものだからです。
心理学の世界では、親の影響が子供に届くのは、せいぜい中学の入り口あたりまでと言われています。子育ては大学までなら22年の超長期計画なのに、親が関われる時間は前半しかない。その残り少ない時間に恐怖に駆られて課金する姿を見せ続ければ、子供はその姿を学びます。教育熱心さ自体は悪ではありません。でも、何にお金を使い、どう働き、どう生きるかを見せること。そっちのほうが、子供の将来のためによっぽど大切です」
ひと夏150万円の課金が買っているのは、子供の未来か、それとも親の安心なのか。

臨床心理学博士
1985年、東京都生まれ。米ルイス&クラーク大学で心理学を専攻し、アルビズ大学大学院で臨床心理学博士号を法廷特化で取得。米国で犯罪更生プログラムや捜査機関の調査支援に従事した。著書に『ザ・ニューロマーケティング』(KADOKAWA)など

