税務調査官「支払いの実態が確認できません」52歳ベテラン経理の〈横領3,000万円〉が発覚…「即日クビ」を命じた社長に迫る“まさかの危機”【社労士が解説】

税務調査官「支払いの実態が確認できません」52歳ベテラン経理の〈横領3,000万円〉が発覚…「即日クビ」を命じた社長に迫る“まさかの危機”【社労士が解説】

会社を守る「正しい懲戒プロセス」6つのステップ

では、社員の横領が発覚した場合、会社はどのような手順を踏むべきなのでしょうか。正しいプロセスは以下の通りです。

ステップ1:証拠の保全と「自宅待機命令」

まずは被害の拡大と証拠隠滅を防ぐことが最優先です。本人のパソコン、会社の通帳、印鑑、帳簿類などを直ちに確保します。

そして、本人にはその場での解雇ではなく「事実関係の調査のため、業務命令として本日から自宅待機を命じる」と通告します。この際、自宅待機期間中は無給とする就業規則の規定がない限り、原則として賃金(休業手当または全額)を支払う必要があります。悔しいですが、後々の法的正当性を保つための「必要経費」と考えます。

ステップ2:徹底的な事実調査と証拠固め

社内の関係者、税理士、顧問弁護士などを交えて、横領の全容を解明します。

・いつから、いくら横領したのか(金額の特定)

・どのような手口だったのか

・何に金を使ったのか(使途の確認)

これらの証拠(不正な振込履歴、改ざんされた帳簿、架空の請求書など)を客観的な資料として整えます。

ステップ3:本人へのヒアリング(弁明の機会の付与)

証拠が固まったら、本人を会社に呼び出すかオンライン等でヒアリングを実施します。必ず複数名(社長と役員、弁護士や社労士など)で対応し、やりとりは録音するか、詳細な議事録に残します。

ここで本人の口から事実を認めさせ、可能であれば「顛末書」や「事実を認める念書(支払念書)」を自筆で書かせます。

ステップ4:懲戒委員会の開催と処分の決定

就業規則の規定に基づき、社内で懲戒委員会等を開き(中小企業の場合は役員会等)、処分を決定します。今回の事例のように3,000万円という多額の悪質な横領であれば、最も重い「懲戒解雇」が妥当と判断されるでしょう。

ステップ5:解雇予告除外認定の申請と解雇通知

即時解雇とする場合は、管轄の労働基準監督署へ「解雇予告除外認定」の申請を行います。横領の証拠と本人の顛末書などがあれば、通常は認定が下ります。認定書が交付されたあと、正式に「懲戒解雇通知書」を本人に交付します。

※実務上は、認定を待つ時間が惜しい場合や手続きを簡略化したい場合、30日分の解雇予告手当を支払って即時解雇とするケースもあります。3,000万円の被害に比べれば、数十万円の手当を払ってでも速やかに縁を切るほうが得策と判断することもあります。

ステップ6:刑事告訴と損害賠償請求

懲戒解雇はあくまで「労働契約の解除」に過ぎません。盗まれたお金を取り戻すためには、別途、民事での不法行為に基づく損害賠償請求を行う必要があります。また、警察に対して業務上横領罪での刑事告訴を行う準備も進めます。

ただし、横領されたお金は使い込まれていることが多く、全額回収できるケースは稀であるという厳しい現実も知っておく必要があります。

“属人化”を防ぐ労務管理の鉄則

Bさんの横領が5年間も発覚しなかった最大の原因は、会社の管理体制そのものにあります。不正行為は「機会」「動機」「正当化」の3つの条件が揃ったときに発生すると言われています(不正のトライアングル理論)。

会社がすべきは、社員が不正を行える「機会」を物理的・システム的に排除することです。属人化(特定の人にしか業務がわからない状態)を防ぐための鉄則を紹介します。

職務分掌(業務の分離)の徹底

最も危険なのは、「請求書の受領」「振込データの作成」「銀行印・トークンの管理」「最終承認」をすべて一人で行っている状態です。

・作成者と承認者を分ける: 経理担当者が振込データを作成し、最終的な実行(承認・パスワード入力)は社長や別の役員が行う体制にします。

・現物管理を分ける: 通帳の保管者と、銀行印の保管者を別々の社員にします。

小口現金の廃止とキャッシュレス化

「手提げ金庫」のなかにある小口現金は、横領されやすいターゲットです。現在では、法人用クレジットカードや、経費精算システムを用いた社員個人の口座への直接振込など、小口現金を持たずに済む仕組みが普及しています。社内から現金を物理的になくすことが最大の防御です。

定期的なジョブローテーションと「休みの強制」

一人の社員が長期間同じ部署に留まることは、不正の温床になります。中小企業で人員の配置転換が難しい場合でも、以下のような対策が有効です。

・最低でも年に1回は長期休暇(1週間程度)を取らせる: 本人がいない間に別の社員や社長が業務を代行することで、隠されていた不正やミスが発覚しやすくなります。

・外部の目を入れる: 月に一度、税理士や外部のコンサルタントに抜き打ちで帳簿と預金残高の突合(チェック)を依頼します。

クラウドシステムの導入による透明化

クラウド会計システムや経費精算システムを導入し、社長がいつでも自分のスマートフォンやPCから会社の資金繰りや経費の動きを閲覧できるようにします。システム上の操作ログ(誰が、いつ、どのデータを修正したか)が残るため、改ざんの抑止力になります。

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