
90万人規模に膨れ上がった在日中国人社会。SNSの普及により、日本人のあずかり知らぬところで「閉ざされた情報ネットワーク」が形成され、そこで新たな違法ビジネスが急速に広がっている。その代表格が、「白タク業」だ。少し前のイメージとは異なるようで、手口も巧妙化している。本記事では、中島恵氏の著書『中国人は日本で何をしているのか』(日経BP)より、在日中国人による違法ビジネスの実態とその背景を紐解く。
“見えないネットワーク”で横行する、在日中国人たちの違法ビジネス
SNSが普及した2015年頃を境に、在日中国人も母国の影響を強く受けるようになった。それまでは母国と切り離され、日本の習慣やルールを守って暮らす人が比較的多かった、という印象がある。
ネットワークの範囲は同郷、同窓などに限られ、同じ中国人といっても、見ず知らずの人との接触機会はあまりなかった。それに、知り合っても連絡手段は電話やメールしかなかったので広がりは少なかった。
だが、SNSの登場ですべてが変わった。ウィーチャットで簡単に国内外に住む中国人とやりとりができ、中国メディアにも簡単に触れられる。日本にいながら、まるで「中国にいるような感覚」で暮らせるようになった。
さらに円安が加速するとともに、中国人のビザ発給要件が緩和され、個々の人々の経済力が高まる一方で、中国そのものの経済状況が傾き始めた──などの複合的な理由により、多くの中国人が日本に住むようになった。
彼ら同士のつながりは、それまでの「点」から「線」になり、近年はその「線」が複雑化、多数の「面」となってパワーアップしている。そうしたことにより、SNSを通じた中国人同士のコミュニケーションに「日本人」は介在できなくなった。
その「日本の中の見えない中国人ネットワーク」上で展開されるコミュニケーションにも変化が起きている。
たとえば日本では違法、場合によっては犯罪となる行為なのに、母国の人々から「中国でできるのだから、日本でもできるはずでしょう?」といった話を持ち掛けられる。さらには、「中国ではルールが厳しくなったが、日本はチェックが緩いから、まだ可能ではないか」という甘言で誘われ、悪事に手を染める人もいる。総じて、日本の刑罰などは中国に比べて緩やかだと認識されている。
現在、在日中国人の人口は90万人以上となり、ひとつの県レベルの規模になっている。人口が増えれば、その集団を構成する人材のバラツキも広がっていくのは当たり前の話だ。
日本にやってくる人々が従事する職業も、かつてのステレオタイプなものから、ビジネスエリートや資産家、その子弟、研究者、元公務員などに広がる一方で、違法行為に手を染める人もいる。
膨大な人数の在日中国人を取材してきた私の実感では、ほとんどの人は真面目に、実直に働いている。だが外国人による迷惑行為や犯罪はメディアで扱われやすく、どうしても目につく。そして多くの日本人が不安を募らせる。さらに日本と中国の社会のルールや「常識」にズレがあるために生じている誤解もある。
では、違法行為に手を染める人々の背景には何があるのか、また、意外な仕事で真っ当に働いている人は何を考えているのか、実態を探ってみようと思う。
巧妙化する違法の「白タク」ビジネス
在日中国人による違法行為の典型例のひとつは白タクだ。中国では白タクを「黒ヘイチャー車」といい、少なくとも30年以上前から全国どこにでもあった。空港や駅のタクシー乗り場近くで顧客を待ち、値段を交渉して目的地まで正規より「高額」で送るのだ。
多くの中国人は「白タクがある環境」で育ったので、違法と認識しないまま受け入れてきた面もある。ある意味、社会インフラの一部を担っていたといってもいい。中国では正規タクシーの列に並ぶと、あまりに待ち時間が長すぎるため、多少料金が高くても利用する人がいたのだ。
しかし現在、都市部では白タクを見かけなくなった。中国では「DiDi」などの配車サービスが増え、価格、車種、オプションサービスを顧客が自由に選択できる。
「高級車、ミネラルウォーターつき」など、状況によって利用者が使い分ける。同じ距離・ルートでも選択によって料金は異なる。選択肢と価格はリスト化され、料金も明瞭だ。そのため、利用者をまちぶせする「アナログ的な白タク」はほとんど無用になった。地方の空港で多少見かけるが、引っかかるのは外国人観光客だけだ。
逆に、かつて日本では白タクはあまり存在しなかった(皆無だったとはいわない)。多くの日本人にとって、白タクは東南アジアなど海外旅行に行ったときに乗るもの、という感覚だ。
10年ほど前、中国からの訪日客が団体旅行中心の頃は、白タクも個人レベル、知人間の受発注が主だった。中国のSNS上で、知り合い(顧客)とやりとりし、料金を決め、決済までしていた。しかし、爆買いブームが去り、団体より個人旅行客が増えると、その需要を見込んだ白タクが出現するようになった。以前、中国にあったのと同じやり方を日本でも踏襲したのだ。
白タク需要が激増したことから、日本では違法だと知りつつも(あるいは違法と認識しないまま)、在日中国人の一部がチャンスと捉え、白タクビジネスに乗り出した。
取材してみようと知り合いに頼み、白タクをしている中国人とウィーチャットでつながったが、いざ連絡しようとするとブロックされていた。SNSの投稿を私に見られたり、取材されたりしたくなかったのだろう。
