◆■日本の“ノリ採用”はAIに強いが……
ここまで読んで、日本の面接を思い浮かべた方もいるかもしれません。日本の大企業による一括新卒採用では、面接は長く、すでに持っている専門能力よりも「組織になじめそうか」を見る場として機能してきました。経団連がコロナ前まで毎年行っていた新卒採用のアンケート調査でも、企業が選考で重視する要素の一位は16年連続で「コミュニケーション能力」。続くのは主体性、挑戦心、協調性、誠実さです。専門知識でも論理的思考でもなく、「一緒に働きやすそうか」に関わる項目が上位を占めてきました。
就活を経験した人なら、体感として頷けるのではないでしょうか。同じことを考えていても、勢いよく口に出せる人のほうが評価され、じっくり考えてから話すタイプは損をしていた気がする。この「コミュニケーション能力偏重」には、日本国内でも、専門能力や思考力とは別の「話し方」で入り口から人を選別してしまうのはおかしい、という批判がありました。
ところが、ここで奇妙なことに気づきます。AIが用意してくれるのは、「それっぽく正しいことを、よどみなく話す」ための言葉です。けれど、その人の表情や声の揺れ、沈黙の置き方まで代わってはくれません。少なくとも対面では、何を言ったか以外の信号がむき出しになります。
もちろん日本の就活でも、志望動機や学生時代の経験を、定型に沿ってすらすら話す練習は盛んに行われてきました。ただ日本の新卒面接は、答えの中身だけでなく、話し方や表情、面接官との呼吸まで含めて人物を見てきました。その分だけ、AIが用意した文章を読み上げるだけでは、完全には突破しにくい面接でもあったのです。
これは「日本の面接が正しかった」という話ではありません。日本の面接がAIに強いのは、実力を正確に測れていたからではなく、AIが代行しにくい「曖昧な信号」を以前から重視していたからです。もっともらしい答えを返せるかだけでなく、「この人と働きたいか」を見ていた。だとすれば、そのやり方の先で何が起きるのかも、日本はすでに知っているはずです。そしてそれは、あまり気持ちのいい話ではありません。
◆■AIの普及でさらにコミュ力が求められる?
AIに代行させにくい「感じのよさ」や「ノリ」は、必ずしも職務の実力と一致しません。往々にして、内輪の心地よさや、似た者どうしの安心感に近い。つまりAIは採用を「より実力本位」に変えるのではなく、実力のように見えていた要素を剥ぎ取ったあとに、居心地のよさで選ぶ部分だけを残すのかもしれません。その結果、一番わりを食うのは、考える力はあっても、それを短時間で言葉にするのが苦手な人です。これまでも「受け答えがぎこちない」と評価を下げられてきた。そこへ企業がAI対策として、視線や間の取り方、対面での印象をさらに重く見るようになれば、能力とは別のところで、いっそう不利になりかねません。AIは面接の公平さを壊したというより、もともとあった不公平さを、さらに濃くしているのかもしれません。
AIが面接から「実力らしく見える言葉」を奪ったあと、最後に残るのは、感じのよさやノリで人を選ぶ物差しかもしれません。けれど、それで測れるのは仕事の能力ではなく、「自分たちと似ているかどうか」だけではないか。
AIが本当に暴いたのは候補者の不正ではなく、採用する側が、そもそも何を見て人を選んでいたのか、という気まずい事実のほうです。AIが壊したのは面接そのものではなく、「短い会話で人の実力を見抜ける」という、僕たちにとって都合のいい思い込みなのかもしれません。
<文/福原たまねぎ>
【福原たまねぎ】
シアトル在住。外資系IT米国本社のシニアPM。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後にベンチャー企業を経て2016年に外資系IT企業の日本支社に入社。2022年にアメリカ本社に転籍し現職。noteでは仕事術やキャリア論など記事を多数発表。初著書『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)が発売中。X:@fukutamanegi

