
総務省の『消費者物価指数(令和8年6月分)』によると、数年で13%以上の物価上昇が確認されており、こうした想定外の物価高は老後に向けた資金計画を崩壊させる可能性があります。貯金2,500万円で60歳完全リタイアと「年金繰上げ受給」を選択した独身男性の事例を通じて、物価高が老後生活に及ぼす影響を見ていきましょう。
これ以上は働きたくない…貯金2,500万円・60歳で「完全リタイア」した63歳独身男性
内閣府の『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果』によると、高齢者が今後の生活において経済的な面で不安に思うことのトップは「物価が上昇すること(74.5%)」となっています。
物価が上がり続ける社会において、一度完全に手放した収入源を取り戻すのは容易ではありません。地方都市にある一人暮らし用の中古マンションで生活しているイサオさん(仮名・63歳)も、早期リタイアの難しさを実感しています。
イサオさんは、中堅のシステム開発会社でエンジニアとして長年勤め、60歳の誕生日に退職届を提出しました。現役時代に購入した分譲マンションはすでに住宅ローンを完済しており、家賃の心配はありません。退職金と長年の貯蓄を合わせた預貯金は約2,500万円ありました。
「これ以上は働きたくないという気持ちが強かったので、年金も60歳からの繰上げ受給を選びました。手取りで月に約11万5,000円が入ってくる計算です」
「繰上げ受給」は通常より早く年金を受け取れる制度ですが、早く受け取る分、年金額は通常より減額となります。イサオさんは24%の減額を受け入れたうえで、早期リタイアを選択しました。
物価高が直撃…「月15万円の老後生活」の計画は崩壊
当時の計画では、月の生活費を15万円に抑えれば、年金で足りない月3万5,000円を貯金から補填するだけで済みます。年間およそ42万円の取り崩しなら、2,500万円の貯金があれば、80代後半まで暮らせるという計算でした。
しかし、自由で穏やかな生活は揺らぎ始めます。原因は、ここ数年で急激に進んだ物価の高騰でした。
「最初は食材が少し高くなったと感じる程度でしたが、気がつけば光熱費も上がり、日用品の価格も軒並み値上がりしています」
総務省の『消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)6月分』によれば、2020年を100とした場合の総合指数は113.6に達しており、わずか数年で13%以上も物価が上昇しています。
どれだけ節約しても、現在のイサオさんの月の支出は18万円。月15万円で暮らすという計画は崩れ、年金だけでは毎月6万5,000円も不足します。年間の取り崩し額は約78万円と、当初の計画よりも速いペースで貯金が目減りしていくことになったのです。
