◆教育パパ・ママが陥る「成長神話」の崩壊
この「成長教」の呪縛は、現在の子育てや教育の現場にも色濃く影を落としています。受験戦争の異常なまでの熱狂です。今、都心部で子どもを進学塾に通わせ、血眼になって中学受験をさせている親たちの大半は、2000年代以降に「圧倒的成長」を強いられ、努力して結果を出してきた「成長世代」の成れの果て。
自分が努力して勝ち上がってきた成功体験があるからこそ、我が子にも多大な努力を強いるのでしょう。
しかし、その「努力すれば報われる」という神話は、いま崩壊しつつあります。
かつては努力のやり方を知っている層だけが勝てましたが、今はYouTubeや生成AIによって、誰もが簡単に高度なツールやメソッドを手にできる時代です。
競争相手のベースラインが底上げされた結果、「圧倒的努力」をして、「圧倒的成長」を遂げたからといって、それにふさわしい結果が得られるとは限らなくなってしまいました。受験が相対評価だからこその悲劇といえます。
受験勉強は、自分を磨く試金石にはちょうどよいものの、これに結果を求めて必死になるような価値はありません。せいぜい1年か2年もやれば十分で、それ以降は趣味の領域です。
◆これからの時代に必要な「半身の生き方」
これからの時代を生き抜くヒントは、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆、集英社新書)で提唱される「半身の生き方」にあると私は考えます。中学受験や出世競争に全リソースを割くのではなく、自分の人生の幸福に主軸を置き、余力で社会と関わる。
そもそも、私たちが立身出世を夢見て「成長」の義務を自らに課すのも、元はといえば、出世の果てにある財を成して、他人よりいい家に住み、いいものを食べ、いい服を着たいからであり、もっと根源に立ち返るならば、「(他人より)幸福な暮らしをしたい」からであるはず。
ただ、私たちはSNSを通じて地球の裏側の暮らしをすら、手元でのぞけるようになってしまいました。
ハリウッドスターやインフルエンサーがばっさばっさと札束をバラまいて立ち回るのに比べれば、もはや年収1000万も2000万も大した違いはありません。
それでも、私たちは人と比べるのをやめられない。どこまでレベルアップしても、「次のライバル」が目について、劣等感に苛まれる。こんな世の中では、もはや「(他人より)幸福な暮らし」なんて無理です。
それよりは、等身大の自分が好きなものに囲まれて、自分だけの幸福を追求したほうが、ずっと利口ではないでしょうか。
そのためには、「成長しなければならない」という幻想を捨て、等身大の自分のままでいかに賢く立ち回るかが問われるでしょう。今後の「賢さ」とは、少なくともテストで測れるようなものにはならなそうです。
<文・布施川天馬>
―[東大卒作家・布施川天馬の教育キャリア通信]―
【布施川天馬】
著述家、教育ライター。 一般財団法人「ドラゴン桜財団」評議員。 1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を編み出し、一浪の末東大合格を果たす。著書に最小コストで結果を出すノウハウを体系化した『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』など。株式会社カルペ・ディエムにて、お金と時間をかけない「省エネスタイルの勉強法」などを伝える。MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)

