2026年7月28日、最大震度7を観測した令和8年熊本地震。被災地の様子を追おうとX(旧Twitter)を開いた人々の口から漏れたのは、「Twitterを返して」という嘆きだった。

東日本大震災のときには、ライフラインが寸断されるなか、安否や交通・電力の情報、行政の発信、被災地の生の声がTwitter上を駆けめぐり、防災インフラの一部として働いていたのに......という嘆きである。
東日本大震災のときとは、収益の設計が変わった
今回、肝心の情報は「おすすめ」の奥に沈み、代わりに人工地震説や、被災者の家族を装った投稿、生成AIによる偽の爆発映像が画面を覆った。
とりわけ際立ったのは、生成AIの回答を根拠に、本物の可能性が高い現場映像まで「AIの偽物だ」と決めつけて拡散する動きだ。
偽物を本物と偽るだけでなく、本物を偽物と決めつけて潰す----真偽の最後のよりどころだったはずのAIが、逆に土台を掘り崩しはじめている。
なぜXはここまでデマに弱くなったのか。
2022年のイーロン・マスク氏による買収以降、表示の主役は、新しい順に並ぶタイムラインから、アルゴリズムが選ぶ「おすすめ」欄へ移った。
この設計は災害の即時性と相性が悪い。X日本法人の松山歩代表自身が「フォロー中」「新しい順」を勧めたが、これは運営が「おすすめ」が災害に不適合だと認めたようなものだ。
緊急時ぐらい初期表示を切り替えられないのか、というユーザーの憤りはもっともである。
さらに2023年、表示回数に応じて投稿者へ収益が払われる仕組みが加わり、「見られればカネになる」構造が生まれた。
災害が閲覧数を稼ぐ素材と化す。
「インプレゾンビ」がデマの拡声器と化す土壌は、この収益設計そのものにあるのではないか。
もうひとつ、買収の翌年に無料APIが投稿のみ月1500件に絞られたことも大きな要因かもしれない。
このあおりを受けて、データ取得や大量投稿ができなくなり、ネットで地震情報を得るための有益な情報源とされていた「緊急地震速報bot」をはじめ、多くの防災botが運用を終えた。
無料だったからこそ、採算度外視の善意のbotが成り立っていたのだが、その前提が崩れたのだ。
同じころ、研究者に月1千万件まで無料でデータを開いていた「アカデミックAPI」も実質廃止され、誤情報を検証してきた研究者が割を食った。
稼ぐ投稿は呼び込む一方、速報botもデマを追う研究者も締め出される----この設計思想こそ、いまのXの惨状を招いたように見える。
緊急時にコミュニティノートは働くのか
では、デマを正す仕組みは働くのか。
コミュニティノートは、利用者どうしが「誤解を招く」投稿に注釈を付け合い、立場の違う人まで「役に立つ」と評価して初めて表示される。
米ワシントン大学などの調査では、コミュニティノートが付けばリポストが約4割減る効果があるとしている。
また、AP通信の報道によれば、デジタルヘイト対策センターが2024年の米大統領選の誤情報283件を調べると、正しい注釈があるのに74%は全員に表示されず、それらは計22億回閲覧されていたという。
だが、このコミュニティノートはなかなか付かず、付くとしても時間がかかる。
Xは「20分以内」表示への高速化を発表したが、デマは一気に広がり、注釈が出るころには手遅れになりやすい。
立場を超えた合意を要する仕組みである以上、意見の割れる話題ほど付きにくく、災害の初動にはまず間に合わない。
今回も官房長官が「悪質な虚偽情報の流布は許されない」と述べ、総務省もXなど5社に対応を求めたが、実効的な一手になっているかは不透明だ。