賢い社長はあえて60歳開始を選ぶ…年金が“24%減額”でも「繰上げ受給」が合理的といえるワケ【税理士が解説】

賢い社長はあえて60歳開始を選ぶ…年金が“24%減額”でも「繰上げ受給」が合理的といえるワケ【税理士が解説】

長く働く経営者は要注意…繰上げ受給の「減額」リスク

繰上げ受給にはこのようにメリットがある一方、経営者が特に注意すべきデメリットも存在します。

1.「在職老齢年金」による減額措置

60歳以降も、厚生年金を受け取りながら会社員や役員として高い報酬を得る場合、年金の月額と給与をはじめとする総報酬月額相当額の合計が一定の基準額を超えると、年金の一部または全額が強制的に支給停止となります。この基準額は2025年度で51万円、2026年度には65万円に引き上げられました。

全額支給停止となれば繰上げ受給の意味がなくなるため、自身の役員報酬の額と基準額のバランスを綿密にシミュレーションする必要があります。なお、この調整対象となるのは老齢厚生年金のみであり、老齢基礎年金は対象外です。

2.障害年金や遺族年金、寡婦年金が受け取れない可能性

繰上げ受給を開始すると、法律上「65歳に達したもの」とみなされます。これにより、受給開始後に重い障害を負っても「事後重症による障害基礎年金」を請求できなくなります。

また、65歳までは遺族年金と老齢年金の両方を受け取ることができません。さらに、国民年金の加入者である夫が亡くなった場合に妻に支給される「寡婦年金」も、妻が繰上げ受給をしていると受け取ることができません。

3.国民年金の任意加入や未納分の追納ができない

加入期間が不足しており、将来の満額受給を目指して自ら保険料を追加で納付しようと考えている場合、繰上げ受給との両立は認められません。

働き方や健康状態に合わせて、適切な選択を

年金の繰上げ受給は、単に受給額が減るというネガティブな側面だけでなく、健康なうちに資金を活用し、インフレや制度変更のリスクから資産を防衛するための有効な手段となります。

一方で、長生きするリスクに備えて一生涯の保障を最大化したい方には、原則どおりの受給や繰下げ受給が適しています。ただし、繰下げによって額面が増加しても、所得税や住民税・社会保険料の負担増により手取り額は比例して増えない点に注意が必要です。

自身の健康状態、想定される運用リターン、そして役員報酬をはじめとする収入状況を総合的に考え、最適な受給戦略をとることをおすすめします。

黒瀧 泰介

税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士

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