「必要ない人は来ないでほしい」…〈年金月15万円・82歳〉病院の“常連おばあちゃん”に向けられた20代会社員の本音。それでも通い続ける理由

「必要ない人は来ないでほしい」…〈年金月15万円・82歳〉病院の“常連おばあちゃん”に向けられた20代会社員の本音。それでも通い続ける理由

「病院で長話をする高齢者がいて困る」。そんな声を耳にすることがあります。75歳以上の多くは後期高齢者医療制度の対象となり、外来受診の自己負担は1割~3割。「医療費が安いから何度も通うのでは」と見られがちですが、実際には、年金生活に余裕がある人ばかりではありません。混雑する町の内科で見えたのは、お金だけでは語れない高齢者の孤独と社会保障が抱えるもう一つの課題でした。

病院に現れた82歳女性、目的は「診察以外のこと」

午前9時半。住宅街にある内科クリニックの待合室は、すでに座る場所がほとんどありません。夏風邪で咳き込む会社員や腹痛を訴える学生、高熱を出した子どもを抱えた母親など。

患者が次々と訪れる慌ただしい空気のなか、自動ドアが開き、一人の高齢女性がゆっくりと入ってきました。

「おはよう! 今日も混んでるわね」

女性は佐藤和子さん(仮名・82歳)。スタッフとはすっかり顔なじみです。「まだ喉が少し痛くってねぇ」とはいうものの、前回の受診はたった2日前。軽く喉が腫れていると診断され、薬も1週間分処方されています。

待ち時間が長くても、和子さんは気にする様子もありません。受付のスタッフ声にをかけ、世間話をしながらゆっくりと順番を待っています。

「この前できた、そこのケーキ屋さん。おいしかったわ!」


「そうなんですね。よかったです」

まるで近所の知人と話すような、和やかなやり取りです。そして診察に呼ばれると、体調の話は一瞬で終わりました。

「まだ喉が痛いのよ、どんな感じか念のため診てほしくてね。それより先生、今日は暑いわね。先生は夏バテしてない? 今朝テレビでもね……」

テレビ番組、近所のスーパー、物価高……。症状の確認が終わると、佐藤さんは堰を切ったように話し始めました。

待合室には、診察室のドア越しに医師と患者の声がかすかに聞こえていました。内容まではわからないものの、時折聞こえる佐藤さんの明るい声や笑い声は、深刻な診察を受けているようには感じられなかったでしょう。

医師は時計を気にしながらも、笑顔を崩さず耳を傾けています。

「今日はお薬も残っていますし、もう少し様子を見ましょう。熱が出たり、症状が悪くなったらまた来てくださいね」

診察室を出た佐藤さんは、満足そのものでした。

「必要がない人は来ないでほしい」

しかし、会計時に「お買い物して帰るわ」とスタッフに最後の声かけをして病院を出ようとしたときです。苛々したような声が聞こえたのです。

「あとどれぐらいですか? もう1時間以上待ってるんですけど。仕事があるから立て込んでいるから早く戻りたくて」

声の主は20代くらいの会社員女性。喉が荒れているのかかさついた声で、マスク越しでも疲れた表情が伝わってきます。

「あと5人ですね。順番にご案内しておりますので……」

そう答える受付スタッフに会社員女性は頷きながら、くるりと振り向き小さくつぶやきました。

「はぁ、必要ない人は病院に来ないでほしい。こっちは忙しいのに……」

独り言であろうその声は、和子さんの耳にも届いていました。しかし、和子さんは何も言うことなく、静かに病院を後にしました。

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