「今日も誰とも話していないわ」…病院で得られる安心感の裏側
「病院はおしゃべりをする場所じゃない」
そう感じる人も少なくないでしょう。実際、外来が混雑するなかで長話が続けば、診療の効率に影響する可能性があります。
一方で、佐藤さんには事情がありました。夫を亡くして12年。子どもは関西で家庭を持ち、年に一度帰省する程度です。近所付き合いも年々減り、親しかった友人も施設へ入居したり亡くなったりしました。
「昨日は誰とも話してないわ」
――そんな日も珍しくありません。
佐藤さんにとって病院は、診察を受ける場所であると同時に声を掛けてもらえる場所でもありました。
佐藤さんの家計を見れば「安いから通っている」と言い切れる状況でもありません。年金は遺族年金も含めて月15万円。ローン完済で家賃こそありませんが、物価高で食費も光熱費も上昇しました。
75歳以上の人は後期高齢者医療制度の対象で、医療費は原則1割負担ですが、一定以上の所得がある人は2割、現役並み所得者は3割負担です。佐藤さんは1割負担ですが、年金暮らしの中で、決して気軽な出費ではありません。
それでも、看護師が体調を気遣ってくれて、医師が数分でも目を見て話を聞いてくれる。それだけで「今日も誰かと話せた」という安心感が得られるのです。
「迷惑なお年寄り」と決めつけられない理由
前述の通り、75歳以上になると後期高齢者医療制度の対象で、医療費の自己負担が原則1割になります。このため「安いから高齢者は何度も病院へ行くのでは」 というイメージを持たれることがあります。
実際、後期高齢者医療制度では、窓口負担以外の費用を公費や現役世代からの支援金などで支えています。必要性が低い受診が積み重なれば、医療費全体の増加につながることは否定できません。
そのため「不要な受診を減らすべきだ」という意見も当然あるでしょう。しかし、病院から高齢者を遠ざけるだけでは、根本的な解決にはなりません。なぜなら、その人たちが本当に求めているものは、薬ではなく「人とのつながり」である場合も少なくないからです。
かつては商店街で立ち話をし、近所を散歩すれば知り合いに会えました。老人クラブや町内会も、自然な交流の場として機能していました。ところが現在は、そうした地域のつながりが薄れています。結果として、「誰かと話せる場所」が病院しか残っていない高齢者もいるのです。
待合室で見かける“常連さん”を、「迷惑な人」と切り捨てるのは簡単です。しかし、その姿は、地域のつながりの希薄化や、高齢者の孤立という社会課題を映す鏡でもあります。
地域サロンや公民館、ボランティア活動、シルバー人材センター、気軽に立ち寄れるコミュニティスペース――。病院以外に「おはよう」「元気そうでよかった」と声を掛け合える場所が増えれば、医療機関が担う役割も少しずつ変わっていくかもしれません。
